ひっそりと群生

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【Paint Over】感想

【男性主人公全年齢】



2020年09月02日配信
木曜喫茶』様 ※リンク先公式HP
Paint Over】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








何の為に絵を描くのか、どうすれば描きたい絵を描けるのか。



『"実る寒空の下、"
 佳作:1年 相沢

 ご来館いただきありがとうございます。
 当美術館はただいま、特設展としまして
 第79回全日本美術コンクール、高校生の部、入賞作品を展示しております。
 この機会にぜひご観覧くださいませ。』
(公式より引用)


プレイ時間は約20分くらい。
選択肢無し。


主人公、相沢は描きたい絵を上手く描く事が出来ずに悩んでいた。
同じ美術部員で絵描き歴の長い牧野に相談に乗って貰うが上手く答えを出せない。
そんな中、美術部講師の桜井先生が「神社で紅葉のライトアップのイベントがあるので気分転換に見てくると良い」と相沢と牧野に遠出を勧める。
ライトアップで照らされた現実の紅葉。
現実の美しい風景を見る事で相沢が導き出す答えは――。


「絵を描く事が出来なくなった絵描き」という題材で、短編でありながらも非常に魅了されました。
絵を描く事を生業にしている方ならきっとぶつかる事が多いと思われる壁。
それに対する一つの答え。
悩みながらも真剣に絵に向き合う姿と、その悩みに対して真剣に向き合ってくれる同士。
導き出す答えもとても良かったのですが、こんな風に創作に取り組む際に真剣に一緒に解決を探ってくれる部員や先生が居る事がとても良く、登場人物全員に好感が持てる一作でした。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
途中オートで文字が進む箇所がありますが、表示される背景もあり圧倒されました。


『音楽』
しっとりとした曲が多く、BGMとして話を邪魔せず。
芸術に真剣に向き合う二人の清冽な空気を表すような曲でした。


『絵』
牧野、桜井先生に立ち絵有り。
塗りが絵画的で良かったのと、表情やポーズも豊かで見応えがありました。
CGも、欲しい時に入り、電車移動時で牧野の携帯画面が変わる所が細かったです。
上記でも書きましたが、神社のCGは本当に美しく、自然美を強く感じました。
さり気なくサークル名の喫茶店が出てくる小ネタも好きです。


『物語』
文章は読みやすく、そして情景描写が非常に丁寧でした。
「絵」の話でもある為、言語化が難しい箇所もあったと思われますがとても的確な文章で表現され。
風景、情景の描写も読んでいてスッと入り、そして文章からも美しさを感じて。
読んでいて彼等の吸っている空気を直に感じ取れるほどでした。


『好みのポイント』
主人公、相沢と牧野の「絵描き」としての繋がりが非常に好きです。
恋とか愛とか、そういう物が絡まず、本当に「絵描き」の二人で。
同士が持ち得る空気を纏っていて非常に好きな二人でした。





以下ネタバレ含めての感想です





自然は芸術に勝つものなのか?芸術は自然に勝つものなのか?
きっとどちらも正しいのかもしれないです。
確かに自然が、現実の物があった上で絵は描かれます。
でも、決してそれだけではなく、絵は妄想の世界さえ、現実に無い物さえ描く事が出来る。
だから創作は素晴らしい物なのだと。


主人公はずっと描き上げていた紅葉の絵がある上で「自分の中に存在する、けれど掴めない何か」を描こうと苦悩していました。
部員の牧野が前回の賞で自分よりも更に良い賞を取った事、牧野が自分よりも絵を描いている期間が長い事。
更に良い賞を取りたい、などなど。
最初の方では様々な悩みが主人公の心理描写で描かれます。
しかし、現実の紅葉を見た瞬間に全てが吹き飛ばす。
現実の世界は自分の理想よりも壮大で、遥かに美しい事を突き付けられます。
そして導き出される答え。
「絵描きなんだから、絵の中ですら自由に描けなくてどうするのか」
「絵描きなんだから、絵が自然に負けてどうするのか」
自然に圧倒され、「負けた、やっぱり自然をそのまま描こう」とならなかった主人公がとても好きです。
「負けてたまるか」と、「自然は凄い、だからこそ自然を打ち負かすほどの理想を描こう」と描き出した主人公。
紅葉を見てから今まで心理描写として悩んでいた部分がワッと吹っ切れ、晴れた様に悩まなくなる主人公。
凄かったからこそ諦めず、それをバネに自分の絵の方向性を見つけた主人公は間違いなく「絵描き」だと。


そして牧野も。
主人公と同じ道を辿っていて。
冒頭の美術展に連れてこられた人物は牧野だというのが二週目で分かる仕組みで。
彼女もまた悩み苦しんだ「絵描き」である事が描かれており、主人公と牧野の二人の「絵描き」が必ず辿る道として「描けなくなる」という事柄が表現されていたのが印象的でした。
彼女も辿ったからこそ主人公と真剣に向き合い、そして「同士」として隣に居て。
「自分が一度苦悩した人間は同じ苦悩する人間を決して馬鹿にはしない」、そういう繋がりを感じ、二人の絵で繋がる関係がとても好ましかったです。


短編の中で絵に対しての「絵描き」の真剣な気持ち。
絵の具の香り、そして秋の風を感じました。
自分は「絵描き」では無いのですが、彼等の「描けない」という苦悩がダイレクトに伝わる、非常に表現力に溢れた一作でした。