ひっそりと群生

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【そして僕らは世界を壊す】感想

【男性主人公全年齢】



2020年08月13日配信
質量欠損』様 ※リンク先公式HP
そして僕らは世界を壊す】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








壊れた世界で生き続ける。



『2014年、7月。

 とある県立高校に通う保志梓は、
 幼少期のトラウマに苦しむ従兄弟、井塚隆之介を献身的に支える毎日を過ごしている。

 二人で生きる日々の危うさと、歪さに、気付かないふりをしながら。

 ――かなしい ひとりぼっちたちと、世界のおはなし。』
(公式より引用)


プレイ時間は約2時間くらい。
分岐は有りますが基本一本道。


一人の少年が一人の少年を救う為に選択を選び続け奮闘する。
作品紹介部分で「※BLゲームではありません」という注意書きがあり、確かにボーイズのラブではありません。
二人の間にある感情はラブなどで測れないほどの大きさがありました。
強いて言うなら「執着」や「共依存」や「ブロマンス」「オムファタール」、現代の流行り言葉で語るなら「激重感情」。
「素直にラブだったら救えたのに」「恋がある愛だったらもっと簡単に救えるのに」と作中を見ていて何度思ったか。


恋愛には決してなれない、だからこそ救うのが困難で。
二人が二人である限り決して越えられない壁がある。
「一番大事で、一番互いを知っていて、一番好きだから、だからこそこの二人ではどうしようもない」。
そういうままならなさを突き付けられるような二人でした。



『システム、演出』
ティラノ製。
一周30分で周回プレイ必須でシステム上セーブ機能は無し。
周回プレイ必須なのでセーブは仕方ないですが、履歴とメッセージ速度の変更が出来ないのは少し困りました。
周回プレイで再度読めますが、履歴は欲しかったです。
一度読んだ所は文字色が変わるので分かりやすく、既読はCtrlボタンで飛ばす事が出来ました。


『音楽』
落ち着いたピアノ曲が哀愁を漂わせていました。
「どうしようもなさ」みたいな、そういうのが音楽からも漂っていて。
所々で入るノイズが世界観を引き立てていたと思います。


『絵』
主人公の梓と隆之介、そして一部の重要人物にのみ立ち絵有り。
表情が多く、とても良かったのと、キャラのスッと涙を零す姿が印象的でした。
隆之介が最初男性にしては女々しい立ち絵で個人的な男性の立ち絵に合わず戸惑いましたが、進んで彼の事を知っていくとこの立ち絵が凄く「隆之介」らしさがあると納得して行ったので、性格付けが上手だなと思いました。
CGはラストのここぞという場面で何度も出るのと、そのシーンでの隆之介が場面も相まって印象的で。
あまりのバリエーションの多さに梓の苦しみを直に感じ取れるのと、隆之介の美しさと辛さが溢れていました。


『物語』
公式では語られていないので深く踏み込めは出来ないのですが、選択によりちょっとしたボタンの掛け違いが起こり、事態が大きく変わっていくのが印象深かったです。
選択肢を選び結果が訪れて、「じゃあどうすれば良いんだよ」と別の選択肢を選び、それでも結果が訪れて。
何度も結果を突き付けられた所にとある登場人物と同じような心境を味わえたと思います。
その人物はプレイヤーの何倍も同じような結果を見てると思うと、いたたまれないです。


『好みのポイント』
梓と隆之介、根本的にどうすれば…とは思いますが、結局二人が互いを尊重したり優先したりする生き方を変えるしか無いという所に行き当たりそうな所が凄い皮肉が効いてるなと思います。
「一人の人間として地に足を付けて自分の為に強く生きる」これしか道が無さそうで。
二人の関係性の根底が書き換わる事がこの世界からの脱却だと思ってしまったのが酷い現実だなと感じ。。
あぁ、確かに、結ばれる「ボーイズラブ」では無いなと、強く思いました。
離れる事も、また一つの道なのかもしれない…凄く残酷です。





以下ネタバレ含めての感想です





ネタバレ項目なのでコチラに。
「周回プレイ必須」とあったのである程度の予測はしていましたが、超SFループ作品でした。
果たして発端はどこなのか、どこから彼らの関係が始まったのか。
作中に出てくるバッ◯・トゥ・ザ・◯ューチャーも、作中のメインアイコンである蝶の名前が入っているバタ◯ライ◯フェクトも見た事は無いのですが、時空改変系はロマンがあるなと。
ロマンはある、ロマンはあるけど、梓が隆之介に執着する限り隆之介は救われない事が分かってしまうのが辛い。


結局、隆之介の幼児退行やあの幼い性格、そして死に向かう自殺願望というのは、梓が「俺が居ないと生きられない隆之介」を願うから形成された性格であり、「幼い日の隆之介」のままでなければ梓の願いを叶えられない、そして、「幼い自分」は永遠には続かない事を悟った隆之介が自身の成長を止める為に行う行為で。
梓が「自分に依存する幼い隆之介」を願う限り隆之介は死に行く事になって。
結局は隆之介の死は梓のメンタルに帰結する所が凄まじくエゲツないなと思いました。
作中の隆之介の行動は確かに「隆之介が梓に依存している」ように見えますが、作中の梓視点での心情を読んでいくと「あれ?ひょっとして梓の方が隆之介よりも依存していて、その依存に隆之介が合わせて寄り添っているのでは?」と感じた辺りで二人のどうしようもない関係が浮き彫りになるというか。
その梓の気持ちに合わせて成長を止める為に命を絶つ隆之介も相当ですが、長い年月をかけてそういう性格や生き方を植え付けた梓も相当という。


だから、そんな梓が必死に隆之介の死を回避する為にループを行うというのが酷い言い方ですが凄まじく自業自得なんですよね。
結局、隆之介の死を回避する為には「梓が隆之介に依存しないくらいのメンタルを持って強く生きる事」しか無い、けれど、時間移動して隆之介を求める梓のメンタルは決してそういう強いメンタルには絶対に届かない。
その結果が何もなし得ず視力を明け渡した梓の最後なんだなぁと思うと、エグい、凄くエグいです。


隆之介とキササゲの耳に付けている蝶のピアスはおそらく隆之介からキササゲへ、キササゲから隆之介へと引き継がれて行っている物だと思いますが、その発端はどこになるのか。
こういうSF系だと「どこが始まりなのか」というのは凄く気になります、卵が先か鶏が先か。
でも、結局、最終ルートを見ても、隆之介と梓はどこまで行っても出会う運命で、そして共依存していく運命なのだなぁと思うと、このループは永遠に終わら無さそうで辛いです。
爽やかにEDを迎えますが、隆之介はきっとどのルートでも二人が二人である限り死にゆく運命なのだろうなと思うと…大手を振ってハッピーエンドとは決して言えないです。
ですが、そんな決して変えられない運命と変えられないループを描きながらもラストには謎の爽快感と焦燥感を味わわせる所が凄いなと思います。
決して胸クソ悪いEDにはなってなくて、「どこかに二人の幸福な未来があるかも?」と思わせるような終わりが好きです。
…本当にあるかは分かりませんが。


邑井さんも一人で必死に行動する逞しい女性でとても好きですが、隆之介の事と比べてしまうとちょっと分が悪いなぁとも感じてしまいました。
彼女は強い、強いからこそ、梓と対にはなれないんだなぁと。
そういう部分にも今作の酷さ(褒め言葉)を感じます。


恋と呼ぶには重すぎて、愛と呼ぶには報われなさすぎる。
そんな二人の男性の永遠に続く死を見なければならない地獄のようで、けれど相手の事を永遠に思い続けられるそんな幸福も併せ持つ「ブロマンス」そして「オムファタール」を感じる事が出来ました。



(あと個人的に、コンセプト的に「恋愛になる方がまだ楽で、本作はBLでは無い」というのは凄く伝わるのと作者様が仰るジャンルこそがその作品のジャンルだと思っているのでBLでは無いと思いますが、男性の距離感的やこういう男性の大きい感情の向け合いは女性向け寄りだなーとは思いました。「男同士の激重感情」が苦手だったり理解が難しい方には不向きな作風ではありました。)