ひっそりと群生

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【ティアマトの星影】感想

【男性主人公全年齢】



2020年09月01日配信
劇団くじら座』様 ※リンク先公式HP
ティアマトの星影】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








孤独を照らす星影を探して、そして、孤独を照らす星影になる為に。
七つの海を越えこの場所に。



『海と星の街、御浜町
 高校生の水瀬慧斗は、温かな街の人々に囲まれながらもある理由から心に孤独を抱えていた。
 星の降るような夜、天体観測をしていた慧斗は謎めいた少女、眞都に出会う。
 記憶喪失だという彼女が覚えていたのは「七つの海を越えてきた」ということだけ。
 眞都との触れ合いの中で少しずつ変わっていく慧斗だったが――。
 これはとある小さな、出会いと別れの物語。』
(公式より引用)


プレイ時間は約14時間15分くらい。
分岐無し。


大事なものを失った事で大事なものを忘れてしまった少年と全ての記憶を失った少女が出会うボーイミーツガール。
慧斗は失ったものの記憶の空白が大き過ぎて居候になっている叔父の家で叔父と、叔父の子供で慧斗と同い年の双子に囲まれ優しい家庭に居ながらもどこか常に孤独を抱えています。
その孤独から身を守るように優しくても斜に構えていないと自分を保てない慧斗。
そんな慧斗の目の前に全ての記憶を失った少女、眞都が現れて。


失ったもの同士でしか理解できない孤独をお互いに感じ取りながら、二人はゆっくりと交流を深め。
そして二人の距離が近付く度に慧斗の周りの人達との垣根も無くなり、暖かな世界を受け入れるようになって行きます。
新しい出会いと今までの出会いの距離を縮めていく慧斗。
しかし、記憶を失った少女、眞都には本人でも忘れている秘密があって。


広大な宇宙の歴史、その宇宙の中で紡がれて行く使命と運命。
たとえ、どんなに壮大な存在でも、この宇宙の中で一人だったらそれは孤独で。
孤独に押し潰されそうな中、自分を見つめてくれる、自分を知っていて忘れないでいてくれる星影(ひかり)を求める。
壮大な宇宙で独自の設定を貫きながら孤独と救済を描き続けた、SFファンタジージュブナイルでした。



『システム、演出』
ティラノ製。
文章速度変更と音量設定変更機能無し。
タイトルでOptionボタンは押す事が出来ず、タイトルでのコンフィグ設定は出来ません。
履歴も履歴時に右クリックを押すとゲーム画面に戻らずコンフィグ画面に行くのでシステムの使い辛さはかなりありました。
プレイ時間10時間越えの長編なのでシステム周りは使いやすくして欲しかったです。
ただ、立ち絵の切り替えや動きはツールとしては早い方なので、ゲームプレイ自体はサクサクと進みました。


『音楽』
オリジナル曲、どの曲も素晴らしかったです。
クリア後に音楽鑑賞有り。
「あほあほらぷそでぃー」は双子がハチャメチャしている情景が浮かびギャグシーンが思い出されて好きです。
「因果交流電燈」はピアノ曲が好きなのでどうしても惹かれるのとそのタイトルがもう、ズルいです。
星を渡るという本作の主軸になっている事柄にとても合っていて、シーンも胸に響くシーンで流れる事が多く聞くとジワリとキます。「Wind Direction」はシリアスなシーンで流れる事が多く、雨の音とBGMの絡まりが良かったです。
OP曲の「星影の彼方」はこれから起こる眞都とのワクワクの日々を感じ、ED曲の「星の海」は星空の下のあの青さで包まれたシーンが脳裏に過りもう、色々な気持ちが溢れます。
BGMの所々で入るクジラの鳴き声が作品に合い過ぎていて、これぞオリジナルBGMの強みだなと思います。
クジラが鳴く度に胸がギュッと締め付けられます。


『絵』
絵柄としては人物画がかなり独特でした。
立ち絵で見るととてもバランスで違和感を感じる事があり、ギャルゲー系のカッチリした絵柄ではありませんでした。
どちらかと言えば美術の方面の絵柄というか、絵画的。
青を基調にしており、油絵のようなタッチで描かれています。
そして、プラネタリウムの「銀河鉄◯の夜」でのKAGAYAさんの絵柄を知っていると絶対にグッと来ると思います。
「銀河鉄◯の夜」も作中で登場しますが、それも相まって、ラストの一枚絵の流れは美しさしかありませんでした。
「星の海」「青い世界」という言葉が本当に似合います。
ラストの主人公が眞都を撫でるCGは額縁に飾って置きたいくらいでした。
他の一枚絵も、立ち絵での背景をそのまま使い一枚絵にしてる箇所が多いので、立ち絵から一枚絵の切り替わりがスムーズに感じるシーンが多かったです。
背景なども、どこか田舎を感じるような背景が牧歌的でした。
ただ、一部シーン、カラオケ屋という流れで街中の背景だったり、最初に図書館に行くシーンで背景が学校の図書室だったりで背景とシーンが合ってない箇所がいくつかあり、そこは気になりました。


『物語』
「壮大」本当にこの言葉が似合う物語でした。
主人公達だけでなく宇宙の歴史に地上の歴史に宿命に。
数々の歴史の中で星の伝承に触れる。
広大な歴史と宇宙があって、その中で自分はちっぽけな存在に感じて。
でも、生きている存在である以上、一人きりは辛くて。
たとえどんなに大きな時間の流れがあっても、たとえどんなに大きな存在でも、「孤独は辛い」。
だから、自分を見てくれる、知っていてくれる存在が欲しい。
壮大な世界の中で、普遍的なテーマが描かれていました。


『好みのポイント』
「孤独に向き合う」や「孤独を照らす」など「孤独」に対しての描き方が非常に良かったです。
主人公の慧斗も孤独を秘めていますがヒロインの眞都もまた孤独で。
「孤独と孤独が出会い孤独ではなくなる」というようなテーマが好きなので、とても胸に響いたのと、最後は本当に…素晴らしいです。
あの青いシーンは美し過ぎました、プラネタリウムで満点の星空を眺めている時と同じような気持ちを味わう事が出来ました。





以下ネタバレ含めての感想です





公式サイトに無いのでネタバレにあたると思いこちらに書きますが、本作は「Starlight」「Space」「Stella」の三部構成となっています。
「Starlight」が慧斗の視点で眞都と出会い夏休みの直前まで、プレイ時間約7時間40分くらい。
「Space」ヨナタン・キースという宇宙軍の軍人が宇宙クジラに出会い別れるまで、プレイ時間約2時間15分くらい。
「Stella」が眞都の視点で慧斗に出会い別れるまで、プレイ時間約4時間20分くらい。
眞都の存在は作中やボーイミーツガールものの流れから人間じゃない事を察してはいましたが、「Space」の存在にはかなり驚かされました。
叔父である叙名が作中で記憶が無いとあるので何かしらありそうだとは思っていたのですが、まさかの二部目の主人公だとは思わず。
今作、歴史の大きな流れや描かれた物を見ると慧斗と眞都が主人公とヒロインではありますが実は叙名も裏主人公という立ち位置で。
彼の過去も明かされた上に奥さんである永夜との経緯まで描かれて、彼の人生と幸福を追うお話でもあったと思います。


正直作中の宇宙クジラの設定に関してはかなり考察系が入るので自分の得意や好みの分野ではない所はあります。
おそらく宇宙クジラは宇宙の歴史を見つめる者。
多分宇宙の「観測者」的な存在ではあるのかな?
明確にそういう眞都の「使命」については描かれないので、そこが若干モヤッとはしました。
多分「観測」をし続ける事が使命だとは思いますが、じゃあ誰から与えられた使命なのか?という事には触れられません。
なので、設定にしっかりした理由が欲しいタイプの人には始終???となると思います。
ですが、この辺りはF◯7のエ◯リスのセ◯ラに近いというか、あとはA◯Rの翼人に近いというか。
「星の意志」や「星の記憶」などを「観測」したり「記録」する存在だとは思っています。
(しかし、こういう「星の意志」みたいな設定の発端のSF作って何なんでしょうね…自分はF◯7で知りましたが、サブカルからなのか小説からなのか、気になります。)
そういう「星の意志」のような設定が好きな人にとってはたまらない作品かと。
作中で自分の事を誰も知らない、自分が一人なのを恐れる「孤独」がメインに描かれますが、そういう「観測」もまた孤独に対してのアプローチなので、「世界や宇宙そのものを孤独にさせない存在」としての「使命」なのかな?とは解釈しました。
宇宙クジラとは「宇宙」を「孤独」にさせない存在なのかなと。
それはそれで「宇宙」もまたワガママな奴だなーとは思いますが。


そういう結構自分から解釈をして行かないと謎が残る設定が多いのと、「星の意志」の細かい設定が語られない部分、神社に伝わる伝承もなんとなく「こういう事があったんだろうなー」という予想しか出来ない部分、慧斗の両親が事故にあった時に慧斗と眞都が会っていた描写がありますがそこも描かれなかった部分、眞都以外のヒロインにもバックボーンがありそうに見えつつそういう所は描かれなかった所がしっかりと全部を描いている作風の方が好きなタイプとしてはかなりモヤッたりはしました。
というか、作中の文章を読んでいて何となく察したのですが、ひょっとして今作はギャルゲー形式で分岐予定があったのでは?と思ったり。
主人公が何かを選択する際に選択を出しそうな一旦溜めが入るんですよ。
なので、本来は眞都、遠枝、柳花、詩織のルートに分岐予定だったのでは?とは思います。
そして分岐後に遠枝の母の永夜の話や、柳花の妹の話や神社の伝承の詳細、詩織と眞都の過去が語られる予定だったのではないかな?と。
憶測なので絶対とは言えませんが、制作上何か削られた部分がありそうだとも感じました。


正直物語が大きく動くように感じたのが「Space」からなので、「Starlight」はひたすらに日常で若干疲れた所もありました。
あの日常があるからこそ「Stella」の眞都視点に驚いたりラストが輝くので必要だと思いつつ、「Starlight」はほのぼの日常が好みでないとかなり助長に感じてしまうかと。
しかし、「Starlight」があるからこそ「Stella」に意味があり。
「Stella」で眞都視点になった時に思った以上に眞都に心の壁があってとても驚きました。
「Starlight」では記憶喪失の不思議で、だけど明るく普通のメインヒロインという印象でしたが、眞都視点になった瞬間一気に人に対して抱いている「壁」が濃い子だと分かり。
慧斗以上に「壁」があって、記憶を失っても尚、宇宙クジラとしての宇宙での孤独の大きさを感じました。
こういう別視点だと明るく見えるけど、本人の視点だと思った以上に闇が深くギャップがあるみたいな描写に弱いので、「Stella」の眞都視点、とても好きです。


「Space」もヨナタンとティアマトの交流と、そしてヨナタンの「孤独」も描かれ。
決して幸福とは言えない人生を送ってきたヨナタンが永夜と出会い幸福を手に入れる流れは本当に好きでした。
ヨナタンとティアマトが男女のような交流を築かず、兄妹のような交流だった事もまた最高で、そしてその先で叙名と永夜の惹かれ合う流れが描かれた事も最高で、恋愛にはならない兄妹の関係と夫婦の関係が好きな自分には「Stella」での過去回想はたまらなかったです。
ただ、最後7年後に眞都と再び再会するようなエピローグで終わりますが、ちょっと個人的に7年は宇宙クジラにとっては短すぎないかな?とは思いました。
もっと今際の際にようやく再会出来た…とかでも個人的には良かったなと思ったり。
まぁそれはそれで悲しい所があるので7年後の再会で爽やかに終わって良かったとは思います。
また人の姿になった眞都は記憶を失っているのか?それは分かりませんが、例え記憶を失っていても今度は慧斗が覚えているので平気だろうなとは思っています。


序盤は時間がゆっくりに感じる流れが多かったり、語られず考察や解釈をする設定が多かったりする部分は好みから外れたのですが、それでもラストの宇宙クジラとの別離シーンは前半の助長さ全てを覆すほどのパワーがあり。
あの慧斗が宇宙クジラを撫でるCGと宇宙クジラを見送るCGと流れで「今まで長時間プレイして良かった」と思える程の力があって。
あの瞬間にボーイミーツガール物の青春とジュブナイルが凝縮されていました。
「夏の一時の物語」「夏、全ての宇宙を知る存在に出会う」まさに「青春」映画、凄くノスタルジックな気持ちになりました。
夏、星空、出会い、ボーイミーツガールものの良さが詰まった一作でした。