ひっそりと群生

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【小坂さん。- Remaster】感想

【男性主人公全年齢】



2021年02月06日配信
斜塔ソンブレロ』様 ※リンク先公式HP
小坂さん。- Remaster】(PC) ※リンク先BOOTH
以下感想です。








君の見る世界に僕も居させて。
さぁ、明るい終末を!



『「3日後に隕石が降ってきます」
 「だから私はそれまでに、前向きな自殺をしたいんです」

 初対面の僕にそう語ったのは、立ち入り禁止のはずの学校の屋上で出会った少女だった。これは、自殺を決めた「小坂さん」に僕が出会ってからの、3日間の記録。』
(公式より引用)



プレイ時間は約50分くらい。
分岐無し。


日陰の日葵 - sun in the shade』(※リンク先感想)を制作された斜塔ソンブレロさんの作品。


高校入学後、とある事件を引き起こしクラスメイトから距離を置かれ高校デビューに失敗した主人公。
クラスには留学生しか話す人もおらず、その留学生も休みの日、昼食をどこで食べるか考えあぐねていた。
ふとしたキッカケで施錠されていたはずの屋上に入る事が出来た主人公は、そこで小坂さんという少女に出会う。
彼女が言うには3日後の夜に隕石が振ってきて人類が滅びるらしく…
「隕石なんかの外的要因で勝手に自分の死を決められるのは嫌、死ぬなら何からも決められていない自分の望んだ時に死にたい」
消極的なのか積極的なのか、自分の意思で3日後の隕石が降る夜、隕石に巻き込まれる前に自殺を決めている小坂さん。
孤独で、でもその孤独が嫌だった主人公は小坂さんに合わせるかのように自分も自殺をする為に屋上に来たと言うが、小坂さんからは「そんな他人の都合に合わせて死んではいけない、自分が死ぬ理由はしっかりと決めないと」と怒られてしまう。
空から近付いて来る赤い隕石、空を舞う不思議な飛行物体、屋上に吹き付ける風、小坂さんと水筒と人間観察。
「自殺」というダウナーなワードが入りながらもどこか淡く緩い世界で繰り広げられる、少年と少女が独自の価値観で過ごし合う地球最後の3日間の物語。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
「日陰の日葵」と同じく本当に一枚絵の使い方が巧みでした。
ドアだけの背景や駅の背景だけから感じ取れるどこか淡く澄んだ空気。
人物画と背景の切り替えが上手く、特に屋上は数々のアングルから描かれ、重要な場所である事も相まって角度による細やかな描写が場所の重要度を上げていました。


『音楽』
ピアノ曲が基本ですが、途中のファストフード店での人間観察シーンで今までのピアノ曲からゴロッと曲調が変わり、その曲調がギャグが入り交じる人間観察と合わさり大変面白く。
素材曲ですが、曲の使い方がとても良かったと思います。


『絵』
今作もまたほぼ一枚絵での進行、立ち絵シーン無しで背景オリジナルという手の込みよう。
シーンに見合った絵の動きと背景の描写の数々はシナリオと絵両方担当の底力を見せ付けてくれるほどでした。
特に屋上に昇るシーンで脚立の有り無しが用意されていたり、ラスト、小坂さんと行った場所に彼女が居ない背景がしっかりと用意され、ファストフード店で一緒に食べたファストフードが自分の側だけの描写になっていたり。
これだけの丁寧な描写を見せられるとやっぱり文と絵、一緒に書いて作られる方にはちょっとノベルゲームは勝てないなぁとしみじみ思います。
人物画だけでなく背景もなので力量が桁違いの上、プレイ中にもそれが伝わって来るのが本当に素晴らしい。
一回しか使われないイラストの数々に目を惹かれましたし、「日陰の日葵」同様、イラスト鑑賞モードが無いのが本当に残念になるくらい絵が良かったです。
色彩も淡くそして今回はどことなく青色が重なり爽やかで。
ネガティブになりそうな題材を絵でも爽やかにカバーし、陰鬱にはならないような采配がしっかりとされていたと思います。


『物語』
今作もまた「日陰の日葵」と同じく読みやすく起承転結が綺麗で辻褄が合っており。
正直途中まで「この流れで辻褄を合わせるの難しいのでは…?」と思っていましたが、サークル様の手腕は確かでした。
人物画も背景も文章も綺麗な為、「雰囲気ゲーで終わっても良いかな」と思っていましたが、しっかりと全てを回収しきり終わりを迎えた構成力には天晴。
途中の小坂さんとの会話での「誰かに決められた道では無く自分で決めた道を進みたい」という小坂さんの生き方が最後に集約されたり、主人公が最初は孤独から小坂さんと居たいが為に「自分も自殺をする為に屋上に来た」と告げ、隕石が降るまでに自分の自殺の理由を考えて行くのですが、「小坂さんと一緒に居るのが楽しくて一緒に居られないと苦しいから」と最初は出任せだった自殺の理由が交流と共にしっかりと形作られていく流れ、小坂さんと主人公のそれぞれの価値観や考え方などが決して長くはない物語の中で丁寧に描かれており。
満足度の高い物語として作られており、心理描写や雰囲気の構築などどれもが丁寧でハズレがないサークル様だと確信しました。


『好みのポイント』
正直「日陰の日葵」よりは賛否があるEDだろうなぁとは思います。
あのEDが幸福なのか幸福では無いのか…それは客観的に見ると中々に難しく、確かに「他の道があったのでは?」と探りたくなる気持ちも分かります。
ただ、個人的には「決められたレールの上を行きたくない」という小坂さんの価値観に合わせるなら、あのEDは一つの正解だったと思いますし、個人的にあのEDが好きです。
隕石降るの中、絶対に離れられない男女とか…好みに刺さり過ぎて!
世間一般で言う「幸せ」かは判断出来ませんが、間違いなく小坂さんは自分の揺るぎない価値観と矜持を貫けたのだろうなと思うと、そこに間違いは無かったとは思っています。





以下ネタバレ含めての感想です





地球を滅ぼす隕石に謎の飛行物体に…
SFか?もしくは妄想か?と序盤は思っていました。
SFで実際隕石が降るとして…理由は明かされ無さそうなので雰囲気ゲーになりそうですし…
妄想だったとして…でも主人公も見えてる為、これもまた雰囲気ゲーになりそうですし…
と、序盤は作品全体の構成は雰囲気ゲーで、どちらかと言うと小阪さんの面白い価値観を感じ、彼女の生き様を見つめるタイプの心理描写に重点を置いた作品として読んでいました。


が、確かに心理描写がとても丁寧で「彼女の矜持ある生き様と主人公が死ぬ理由と同時に生きる理由を探る物語」で間違いは無いのですが、まさかのしっかりと「隕石」と「飛行物体」にまで理由を付けてくるとは思って無くて。
振り返ると間違い無く水筒の飲み物を口に含んでから世界が変貌していたんですよ。
ネタキャラで濃いキャラ枠だと思っていたナイジェリアからの留学生、モーゼス石橋君がまさか効いてきて現実を突き付ける担当だとは思わず。
どちらかと言えばギャグキャラ、お遊びキャラで明らかに「架空の存在」みたいな彼が主人公が語る隕石などの非現実な状況を否定する側であり、水に溶けるドラッグの話を語る側だとは思って無くて。
ナイジェリア…確かにそういうお国ですが、ドラッグ関係を語る時の説得力で出てくるとは思わず、石橋君がドラッグの話をした辺りで「まさか…」となり、保険の先生が小坂さんの家庭環境を話した辺りで「やはり…」となりました。
今作の作風、空気感もあって、結構幻想世界寄りというか「雰囲気ゲー」で終わらせても何一つ悪くはない作風の中で、しっかりと理路整然とした理由を持ってきて雰囲気で終わらせない辺りに「日陰の日葵」で感じた作者様のしっかりと地に足がついた作風を再び感じました。
「何にでも現実的な理由をつける」「辻褄が合っている」自分は本当にそういう作風が大好きなので、斜塔ソンブレロさんの作風、本当に好きです。


幻想的な空気がありながらも突き付けられた現実はとても残酷で…
「隕石で死ぬという自然に勝手に決められた死すらも許せない」からこそ隕石での死が嫌で自殺を選ぶ程に「誰かや何かに決められたレールの上」を嫌がり自分で決める事に矜持がある小坂さんが、母親の施した「勝手に与えられていたドラッグで世界を歪められ、隕石を信じ込まされてきた」という事実はそれはもう小坂さんの矜持をズタズタに切り裂く程だったと思います。
最後、彼女は自分がドラッグを施されていた事を知っていましたが、それでも自殺を選んだのは「母親が娘が幸せに生きるようにドラッグを施したのならそのレールから外れてやる」という最後の足掻きというか…最後の最後まで矜持を守り通した姿というか…
彼女からすれば矜持…プライドすらも母親の手によってズタズタに切り裂かれた上、更には無意識に主人公に水筒を振る舞いドラッグを与えている為、他人を巻き込んでおり。
プライドを守る為や償い、全ての感情を含めてこの決断しか無かったのだろうなと思うととても切なく。
同時に、彼女が選んだのが例え死だったとしても、それこそが彼女はプライドをや尊厳を守り通した姿である為、切なくともその姿はとても美しい物に感じました。


最大級の誤算はこの3日間の間で主人公の孤独の隙間に挟まってしまい、孤独な彼の生きる意味に小坂さん自身がなっていた事かなと。
主人公は長い孤独の中、最後に石橋君の手引きによってクラスメイトと話し、「実はクラスメイトはそれほど事故の事を気にしておらず、気にしているのは自分だけだった」という事実に気付き、クラスメイトと話すようになります。
それでも、長かった孤独…石橋君が休んだあの日、おそらく人生で一番孤独だったあの日を埋めてくれたのは小坂さんで。
そして小坂さんとの会話で彼女の独特な価値観に触れ、彼女を特別視している時点で主人公はもう小坂さんを無視する選択は出来なくて。
だからこそ、ラスト、彼女の飛び降りを追いかける選択をするのですが、それが誤算でありながら同時に最も彼女が望んだ「他の何かに決められた道を外れる選択」だったのだろうと思っています。
「隕石」も「飛行物体」も「世界の終末」も「自分の幸福」も母の掌の上で決められていて、何もかも決められた上で唯一選んだ「自殺」。
でも、その「自殺」すらもドラッグが前提にある上で下す決断で…そんな中、主人公の行動だけはきっと本当に予想外も予想外で。
二人は一緒に落ちてしまいますが、最後の最後に「一緒に心中してくれる人があらわれて」、「本当のレールから外れた道」を辿れて、主人公によって矜持を守り通せたのではないかな?と思っています。


今作はEDがEDの為、どこか後ろ向きなラストに見え、好き嫌いが分かれるEDだとは思います。
一種のメリバに近い流れの為、「でも二人落ちちゃったし…」と受け入れがたい人も居るかと思いますが、それでも、自分はたった3日間の交流なのに人生を決められる程の相手に出会えた二人が本当に幸福だと思いますし、最後の主人公の決断によって小坂さんが今まで語ってきた彼女の価値観を守るという…
ヒロインの命は確かに守れないけれど、それよりも命よりも彼女が大事にして来た矜持を、プライドを、生き様を、守り通せた事で本作はしっかりと「ヒロインを守る主人公」の物語を描いていたと思っています。
何を大事に生きるかは人それぞれ、何を大事に死ぬかもまた人それぞれ。
「自殺」というネガティブな作風になりそうな題材で文章、イラスト、雰囲気、全てで透き通るような青さを損なわず、決して暗い作風にならず。
斜塔ソンブレロさんは暗さと切なさがありながらもそれを吹き飛ばすような大きな爽やかさを形作られるのが本当にお上手で、主人公とヒロインの関係に物悲しさがありながらも決して引きずる事は無い作風で毎回大好きです!
そんな、最後までどこかポジティブな空気で爽やかに有り続けた、とても読み応えのある屋上のボーイミーツガール物語でした。