ひっそりと群生

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【止水 -しすい-】感想

【男性主人公15禁】



2021年08月27日配信
Petit』様 ※リンク先公式HP
止水 -しすい-】(PC&ブラウザ)(15禁) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








流れず、留まり、湛えて、そこにあるのは永遠。



『共に小さな田舎町に生まれ、いつも一緒だった可愛い幼馴染み、止水
 幼いころから体が弱く、俺はいつも彼女を守って来た……
 そして、ある日知ることになる
 彼女の命はもう長くない、と―――
 ―――余命僅かな彼女と過ごす最後の夏……
 俺は彼女に何をしてあげられるのだろう……?』
(公式より引用)



プレイ時間は約1時間30分くらい。
分岐有り、ED3つ、1ルートクリア後に分岐箇所からロード可能。


田舎の山村、余命少ない幼馴染と気の置ける友人達と共に過ごす日々。
お互い好き合っているのは目に見えて分かっていて、でも、時間が限られているから想いを伝え会えず。
残された命を懸命に生きる、幼い頃から想い合う幼馴染物として切ない日常を楽しみ、そして明かされていく過去に震えました。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
ティラノ製で履歴の中にボイスリピートがあった事が嬉しかったです。
ただ、スキップは未読でも飛ぶので初回プレイでは気を付けた方が良いです。
一周クリアすると分岐点から始める事が出来るのでスキップはほぼ使わなかったのですが、使用すると未読でも飛びます。


『音楽』
田舎によく合う柔らかな曲が良かったです。
ゾクッとするシーンでは不穏な曲がピッタリと合い良い選曲でした。
声は主人公以外フルボイス。
録音環境と演技力で若干差はありますが、フリゲとしては許容範囲内。
特に女性陣の声は演技、声質共にかなり良かったです。
ヒロインの止水の可愛らしい声に脳がとろけそうでした。


『絵』
主人公と主人公の母以外に立ち絵有り。
表情パターンもですが私服の枚数が多く見ていて飽きませんでした。
特に止水はかなりの頻度で服が変わるのでヒロインのファッションショー好きにはたまりませんでした。
作中でも言われていますが止水の胸囲が本当に驚異的で…
幼少期の体型を知っていると成長を感じ、幼児体型と良い比較になっていました、幼馴染属性最高!


『物語』
田舎の話ですが、子供たちは皆スマホなど現代機器を持っている為、流行りの言葉などはしっかりと使っている所に現代の田舎っぽさを感じたり。
前半は友情物として皆でワイワイガヤガヤしますが後半から友人達の止水への感覚と主人公からの止水の感覚の乖離を感じ、どんどん距離が出来て。
状況の悪化により主人公と止水だけが時間の波に取り残され、それにより「二人の世界」が形作られていく所に親しかった人と距離ができるリアリティがありました。
話は「余命」「両片想い」そこから始まる最後の恋物語
だと思っていましたが、結構あらすじから察していた物語とは予想外の方向に行って面白かったです。
もっとこう、穏やかな日々を静かに過ごして中盤で両想いになって最後には切ないお別れをする…と思っていたのですが。
章の間で挟まる過去回想で「あれ…?」となりました。
良い感じに裏切られましたし、結構好みの闇属性を引き出してくれたので満足です。


『好みのポイント』
最後の選択と各ED、そのどれもが納得出来、都合の良い展開が無かったのが好きでした。
序盤に選べる2つの展開も良いのですが、二周目から選べる3番めの選択がまた…
一筋の希望と、でも、決して不可逆な結末で最初に予想していた「切なさ」とは違いましたが、間違いなく「切なさ」がありました。





以下ネタバレ含めての感想です





章の間で挿入される過去、忍び込んだ社、その中にあったヒトガタ、ヒトガタに触れた止水、犯される罪。
最初は「余命幼馴染系」だと思って読んでいたのですが、途中に挿入される過去で「あれ、これは…」となりました。
全体的に見ると伝記系というか、呪術系というか、罪と罰系で、そしてそれに伴うEDで、最初に予想してた作風とだいぶ変わり闇属性の方向としてかなり好みでした。
両片想いの幼馴染と徐々に想いを伝えあって最後の時までイチャイチャ凄す系もそれはそれで固定カプ好きとして好みですが、闇方向のスパイスがある方もまた物語の凹凸的には好みで好みで。
止水の病弱な理由が「過去にヒトガタに触れ、ヒトガタに魂を奪われて行き、ヒトガタと止水の肉体が入れ替わろうとしている」「ヒトガタに乗り移った人間は"生きたい"という気持ちが続く限り不老不死になる」という事が明かされた時、「これは…止水は人間に戻る事が出来るのか??」と不安になりました。


結果は案の定、全てのEDで止水が人間に戻るEDが無く、不安的中と共に「都合の良い結末の無い潔さ」がとても心地良かったです。
そうですよね、だって「社に忍び込んで封印されている"ヒトガタ"を解いたのが主人公」なので、主人公には罪があり、罪があるならそれ相応の罰も有り。
しっかりと「止水は人間に戻れない」結末が提示され、罰が残る構造はとても好きでした。
しかも一周目のEDは「歳を取らない止水と父親が村から離れ離れた場所で暮らすED」と「止水の魂を成仏させるED」で主人公と結ばれるEDが無いのが中々に仄暗く。
二周目から追加のEDも「止水は歳を取らないから場所を転々とするしか無く、主人公は歳を取り、老人の主人公が寿命を迎え止水は主人公と共に"生きたい"という気持ちを失い成仏する」というEDで、「決して止水は人の肉体には戻れない」まま全てのEDが描かれ、主人公が犯した罪にご都合主義が起こる事無く最後までEDが一貫していたのが好きです。


更に、「止水は人に戻れない、神は居ないのか?」「ヒトガタの封印を解きにヒトガタに触れたのは自分達だが、そんなに罪深かったのか?」という流れの中で主人公が自分が本来神社に祈っていた本当の願いが「止水とずっと一緒に居たい」だった事を思い出し、二周目からのEDで「ヒトガタになったからこそ止水とずっと一緒に居られる、なんだ、自分の願いは叶っていたのか…」とまさかの方向性で捻れに捻れて叶った願いを受け入れ、「人でなくなった止水」を喜ぶような負の感情にとても邪悪さというか、人間の本質的な願いとそれに伴う闇が垣間見え、ゾクゾクしました。
「人に戻れない止水」は罪であり、罰であり、そして主人公の心の奥底の願いの成就でもあるというこの負の三段構え、明るそうな作風に見えて最後に明かされる闇がとても好きです。
主人公の家の家族関係の希薄さや、途中の男女の友人が止水に会えない自分に気を遣いながら明るい話題を出そうと「俺達付き合う事になった~」と言う場面で、そういう周りの明るくしようとする好意を受け入れられず、逆に無神経に感じ疎遠になったり。
主人公が元々暗くなる素質を持っていたり、どんどん「主人公には止水しか居ない」という状況が構築されていく流れも物語の地盤には暗い要素がつきまとっていて、とても邪悪な「二人の世界」を感じました、「二人の世界系」、どんな形であれ好みです。


結果的に主人公は年老いて、止水は永遠に少女のままで。
きっと一つの所には留まれなかったでしょうし、周りの目を気にして夫婦のような関係は築けなかったとは思いますが"ずっと一緒にいる"という願いだけは叶い、最後は幸せだったのかな…と思います。
「人らしい人生」を送れないのはもう、それは罰なので仕方なく、そこで「止水は人間に戻りました」のEDが無く「人ではない止水とずっと一緒に居る」な所が明るさと暗さを内包した独特の作風にとても合っていました。


止水、「流れないでじっととどまっている水。たまり水。」。
名前通り、タイトル通り時が「止まってしまった少女」。
けれど、時は止まっても人の目から一つの場所に留まれなくなった所に人の世と皮肉を感じます。
人の身を失い、けれど大事な人とずっと一緒に居続ける事が出来るのは幸福なのか、不幸の中の幸福なのか。
流れ続ける時の流れに乗る事が出来ず、共に人の世を渡り歩き、最後に再び神社に戻り生涯を終える。
あらすじの「余命」の「切なさ」とは真逆の「人の身に過ぎたる永遠」から感じる「切なさ」を感じる作風でした。