ひっそりと群生

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【シ・シュ・ン・キ】感想

【男性主人公15禁】



2021年11月29日配信
『カビ布団』様 ※リンク先公式HP
シ・シュ・ン・キ】(PC&ブラウザ)(15禁) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








因習と重圧によって摩耗していく心。
壊れた世界で君と出逢った。



『思春期……それは誰にでも訪れる時期。
 人はこの時期を経て、やがて大人になっていく。

 そんな思春期を生きている杮葺(こけらぶき)中学校の中学生、『弓野大地』は夏休みを終え、居候である『茜』を残して気だるげに登校した。
 しかし、教室に到着すると、そこにはいわれのない暴言の書かれたノートがあった。
 どうやら自分はいじめられているらしいが、何故だろう……そんなことをされる覚えは全くない。
 そんな疑問を抱いていると、どうやら今学期から転校生が来るらしいということが明らかになる。
 転校生の名前は『二菱蒼』……その容姿は、居候である『茜』とうり二つであった。

 その『二菱蒼』との出会いを機に、『弓野大地』の学校生活は大きく変わっていく。』
(公式より引用)



プレイ時間は約3時間30分くらい。
分岐無し。


そしてパンになる』(※リンク先感想)のカビ布団さんの作品。
※リンク先は「❤」有り版ですが、本感想は「❤」無しの初期verプレイでの感想になります。


外側から見れば気色の悪さを感じる因習が続いている学校。
その中で主人公に向けて行われるイジメ。
全く見に覚えのないイジメと、霞んでいる過去。
主人公は居候と瓜二つの転校生の蒼と共にイジメの原因と覚えのない過去を暴いて行く。
ジャンルとしてはサイコロジーミステリー。
明かされて行く真実はどれも辛く、痛く。
人間の醜さがそこかしこに溢れていて。
進むほどに息苦しくなり、だからこそ今、味方をしてくれている人が暖かく。
心の奥の奥に潜り、傷付きもがきながら真実を明かしていく心理探求物語でした。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
履歴に改行が無かったのは読み辛さがありました。
あと、読むのに支障は無いのですが、全画面表示で文章が左側のみに表示され、右側が空いていたのには少し勿体なさを感じました。
画面の大きさがもう少し小さく全画面文字表示か、右側に何かイラストなどがあれば華やかだったのになーと少し思いました。


『音楽』
サックス(?)を使った曲がかなり好みなのと、平穏なシーンから主人公が自分の内面と向き合って深く深く心理的に入り込む際、音楽の切り替わりが非常に上手かったと思います。
真実が開示される度に音楽と共にゾクゾクしました。


『絵』
立ち絵、一枚絵などは無し。
背景などが前作の「そしてパンになる」と同じなのと町の名前を見てスターシステムを見た時のワクワクを感じていました。
「あの店はここ?」「あの場所はここ?」など、前作との比較を考えると楽しかったです。


『物語』
登場人物達の関係性と心理描写、人間のややこしさや邪悪さ、そこから生まれる孤独や承認欲求の描き方が巧みでした。
進むほどに「まだ落とすのか?もっと地獄があるのか?」と人の業を底の底まで見せ付けられました。
そこから辿り着く現在の状況は最早納得しか無く。
ここまでの事があっても尚、「人間を辞めたい」とならず最後には進んでいく主人公には凄まじい精神力を感じました。


『好みのポイント』
「思春期」というタイトルではありますが、この人間関係は決して「思春期」だけには収まらず。
大人になっても人が揃えば巻き起こる人間の面倒さや傲慢さの描き方が絶妙でした。
町の因習も…実際に「有る」事なので見ていてエグさが凄かったです。
重しを付けられ、他人の感情に巻き込まれ。
言葉では決して表せないほどの重荷を背負った主人公の心が印象的でした。





以下ネタバレ含めての感想です





誰にも知られてはいけないクラスや周りの人間の関係を良好のものにする「調整係」という単語が出始めた時点で「は…?」と結構素で声が漏れました。
いやいやいや、大人じゃなくそれを子供に任せて、しかもその役職は誰にも語ってはいけないとか…どう考えても人柱で。
そんな阿呆のような役職が有り続ける中学の時点でかなり閉鎖感を覚えたというか、「因習を抱えた村」の気持ち悪さを感じ、それを当たり前に受け入れている世界にモヤモヤとした吐き気を覚えていました。
そんな役職に選ばれただけでなく、家もただただ最悪で…
借金ばかりの父に、その借金を返すために躍起になり子供を子役にし稼ぎ金銭感覚が狂った親。
そして天才子役であったけれど身体の成長から子役にはなれず、主人公に子役を奪われ憎んだ兄妹の「大地」。
親は主人公、「東祐」の事など見ておらず、「大地」という子役の器しか見ていない。
…控えめに言って地獄か?という中で、とうとう東祐も成長で大地に成れなくなった後、今度は頭の良かった大地しか親は見る事無く。
最後には借金を東祐に押し付け夜逃げをしてしまう。
「調整係」の役職で褒められる事だけが自己肯定に繋がる中、親友だと思っていた男友達の莉音と女友達の憂の仲も男女間の面倒臭さによって崩壊してしまい。
更には同じ「調整係」になった龍崎という少女の性暴力事件の犯人にまで仕立て上げられてしまう。
…いや、もう、これで心が壊れるなという方が無理でしょう。


主人公の大地は開始時点で心が壊れており記憶を失っており、「大地」として生きているのですが、過去が開示される度に「もう仕方ないよ…」と頭を抱えました。
辛い、何もかもが辛い。
でも、大地の親みたいなクソ親、毒親というのは実際に居ますし、「調整係」という名目は無くてもクラスの中で担任から勝手にクラスを取り持つように期待されて押し付けられている人柱のような子はリアルに居るので、フィクションの仮面を被りながらそのどれもがリアルを仮面の裏側に潜ませている構図にはひたすらに恐怖しました。
「これはフィクションだよー」と言いながら現実を叩きつけてくるのが本当にお上手で。


だからこそ、大地の中では決着が付いたかもしれないのですが、プレイヤーから見たら納得出来ない部分があったというか。
海は謝った事で許されましたがプレイヤーからしたら「自分のした事もっかい振り返ってみろや」ですし。
莉音と憂も「あなた方の醜い恋愛にもう二度と付き合わせないでくれ…」ですし。
矢田先生に対しては「「調整係」の存在をおかしいと思ってくれ」になりました。
唯一納得出来たのは角谷と川内が捕まった事ですね、法的に裁かれる姿を見て安心しました。
言ってしまえば、大地があまりにも優しく「許し」の主人公であり、大地が与える「許し」の数値と、今までの他キャラの悪行の数値がプレイヤーからしたら釣り合っていないように感じてしまって…
被害者である大地が許せばそれはもう外野が言う事では無いのは分かりつつ、プレイヤーから見たら大地に被害を与えていたキャラクター達の高感度がもうあまりにもマイナスに振り切り過ぎててリカバリー出来ない状態にあったと思います。
というか、今作、本当に最初から最後まで大地を無償の好意で支えたのが蒼(あかね)、嵐山、店長、きららくらいしか居ないという…
他キャラがあまりにもあんまり過ぎて真実が開示される度にドン引きでした。
人はこんなに醜くなれるのだな…と。


今作は二重人格の大地が本来の人格の東祐の過去を知って行く話で、同じく二重人格の蒼(あかね)を助けたいと思う話ですが、大地も蒼もどちらも「元の人格に戻る、元の名を名乗る」という展開にならなかった所に二重人格物の独自性があったと思います。
こういう話、結構ラストは「元の自分に戻る」となりがちですが、東祐の過去を知れば知る程、「東祐はもう人間として生きたくは無いよなぁ」と思ってしまうので、最後、大地に落ち着いたのは凄く納得というか。
東祐の過去を大地が知りつつも、東祐は静かに眠りたいだろうなぁと納得しました。
蒼も、あかねの過去は断片的にしか分かりませんが、きっと東祐と同じくらいの苦しみや痛みをあかねで抱えていたのでしょう。
そう考えると安易に「あかねに戻りなよ」とは言えないので、あかねも蒼を選んだのには納得です。
主人公もまた本編であかねよりも蒼に救われていたので、蒼寄りになるのにも納得でした。
ただ、蒼(あかね)に関しては、現実の姉妹の本当の蒼も居て、彼女もまた上流階級のご家庭の闇を抱えているので、あかねが蒼を望んだ場合、本当の蒼の方に負担がかかるのを考えると、姉妹揃ってハッピーエンドでは無いんですよね…
なのでエピローグで今度は主人公が本当の蒼を心理的に見ていく流れには納得でした。
どうなるかは分からないけれど、あかねが蒼を選んだのには主人公も関わっているので、今度は本当の蒼の立場をなんとか救う方に進むのでしょう。
居候の茜の正体も予想はして居ましたが「って事はあかねとどこかで合っていないと無理がない?」と思っていた所でしっかりと過去に出会っている事が回収され、違和感無く終えました。
ただ、「茜の姿を覚えていて、性格は蒼に惹かれていた」という流れは最後に本当の蒼を癒やしていくのにかかりつつ、「本編で助けてくれたのは蒼(あかね)なのになぁ」とちょっとモヤッとした部分もあります。


「思春期」というタイトルで「承認欲求」をモチーフに描かれていますが、「調整係」や「友情が恋愛により崩壊する」「罪を押し付けられる」などは「思春期」でなくとも大人になっても起こる出来事なので全世代共通の気味の悪さや気色悪さがありました。
全ての出来事が運悪く降り掛かった時…間違いなく心折れると思いますが、大地のように二重人格になってまで生きているだろうか?と思うと死の方を選んでしまいそうだと思った為、大地は間違いなく強い主人公だったと思います。
失った記憶を思い出していく時の恐ろしい雰囲気、人の心の揺れ動き、人間の自分しか見ていない醜さ、誰かを犠牲にする利己主義。
そういうサイコロジーやエゴイズム、そして知っていくミステリーが詰まっており、独自の心理系作品で恐ろしくも面白かったです。



あと、作中で「八紘町」と出たのですが…もしかして本当に前作の「そしてパンになる」と同一世界、同じ町でしょうか?
もし同じ町だったらめちゃくちゃに治安が悪い町だなぁ、住みたくないなぁと密かに思っていました(笑)
警察にはちゃんと機能していて欲しいです。