ひっそりと群生

ひっそりと持ってるCDの情報やゲームの感想上げたり。購入物の記録など。気ままに。飽きっぽいので途中で止まったらご愛嬌。

【Children of Belgrade Metro(ベオグラードメトロの子どもたち)】感想

【男性主人公15禁(Steamでは18禁)】



2020年09月07日発売
Summertime』様 ※リンク先公式HP
Children of Belgrade Metro(ベオグラードメトロの子どもたち)】(PC) ※リンク先BOOTH
以下感想です。








自己愛と猜疑心と傲慢さを持つ能力者達の己の価値を貫く異能バトル…そして、劣等感の塊を持つ無能力者の、その果て。



『――20XX年、旧ユーゴスラビア圏・セルビア。その片田舎各地で“超能力者”が現れたという報告が入る。
 政府は、能力を使用した者を罰する法律を作る。
 これにて平和は守られたように思われた。

 そして、10年後……

 セルビアの首都・ベオグラードに引っ越してきた少年・シズキは、家出をしたところ
 施工中止から4年が経ち、廃墟同然となったベオグラード・メトロに迷い込んでしまう。
 しかし、そこは社会からはじかれた能力者たちの溜まり場だった。

 ベオグラードを牛耳る大企業・ゴールデンドーン社による『能力者狩り』により、
 能力者たちは厳しい立場に置かれていた。

 シズキは、ゴールデンドーンの令嬢・マリヤと出会い一目惚れ。
 極端な男卑女尊の思想を持つ彼女に近づこうとして、女装をすることになる。
 超能力者の謎を追うにつれ、彼女に深く入れ込むにつれ、シズキはとある野望を抱く。

 バルカンのむせるような夏、
 要塞のようなブルータリズム様式の団地がそびえるベオグラード
 忘れ去られた王国のようなメトロが、子供たちを飲み込んでいく……。』
(公式より引用)



プレイ時間は約10時間30分くらい。
ED分岐はEDを一つ見る度に「EPISODE SELECT」の「TERMINAL」を選ぶと路線選択マップで増えていきます。
「LINE2 DOWN TRAIN」→「LINE3 LOST AND FOUND」→「LINE1 TO BE CONTINUED...?」→「LINE4 OVER RUN」→「LINES ENDING」の順のはず。
EDはおそらく全5つ。
(2020年10月時点)18禁化&修正パッチが公式で配布されていますが、自分のPCではパケ版もDL版も両方、7でも10でも適応するとゲームの起動自体が不可能になりました。
人によっては適応出来るみたいですが、かなり不安定みたいです。
パッチ未適応では起動出来たので、パッケージコンプリートなどに拘りが特に無く不安な方は既に修正の適応がされているDL版のご購入を推奨します。
18禁化するシーンは後半のマリヤとジーマのシーンだとはなんとなく察します。


MINDCIRCUS』『真昼の暗黒』『CODA』(※リンク先感想)のSummertime様の最新作であり初のシェア作品!
待ってました!!
この感想がいつ投稿されるか分かりませんが、2020年に発売の同人ゲームでこれは同年に触れておかねば同人ゲーマーとしての人権が…!!?と思ったほどの話題作なのでプレイ。


セルビアの街で能力者達が暴れまくる異能バトル劇!!
…で間違いはなく、数々の頭脳戦がありその部分でもとても盛り上がるのですが、本作は生きにくい人間が必死に自分の領域を守るために戦うバトル物で。
セルビアという日本とは治安があまりにも違い過ぎる場所、家庭環境に問題を抱えた少年少女達が必死に人間関係を構築しながら居場所を形成していました。
誰かと理解し合おうとしても感じる大きな壁。
Summertimeさんは人間の孤独を描きながら必死に自分の居場所を探し、それでも理解し合えない人物達。
各々の思想の独特さと、独特な中でそれぞれが強く大きなプライドを持ち絶対に引けない部分を持つ事で相互理解が難しい、相互理解が不可能なキャラクターや状況を描くのが大変お上手過ぎます。
それぞれが持つ生き辛さや譲れなさ、それにより発生する会話での居心地の悪さや居場所の無さに息が詰まりそうになる事が多々有りました。
今作は能力者と無能力者という存在が居て、主人公が無能力者でそこを含め様々な部分に劣等感を抱いているのがそれに輪をかけて読んでいて非常に辛く。
頭が切れて良い所も沢山あるのに数々の劣等感に押し潰されそうになっている人間というのは非常に胃を締め付けられます。


女性の能力者が40%ほど多い事やセルビアを支える巨大企業の社長が女性なのもあり若干女性優位の社会が築かれているという独自性と主人公の過去や主人公が惚れた令嬢、マリヤと関わる際に置かれる境遇全てに「女性であったならば…」という事柄が絡まり、主人公が様々な劣等感と男性である事に自分のアイデンティティが徐々に崩れていくのが見ていて大変辛く。
もっと他に良い道があったのかもしれない、もっとマリヤとの関係にも別の物があったのかもしれない。
そんな風に思いながらも、きっとそんな出会いも道も初めからどこにも無かった…とチャートの一本道の線路を見て突き付けられました。


EDは個人的にとても難解な物であり、考察求む!というタイプなのですが、なんとなく感じるビターさが非常に独特で。
彼ら、彼女らは幸せだったのか…そこは分かりませんが、最後はシズキの中ではせめて幸福であったと、そう思いたいです。



『システム、演出』
ティラノ製。
ティラノの基本性は有り。
パッチに関しては上記にも書きましたが今の所不安な方は未適応推奨。
物語は一応「TERMINAL」で分岐しますが開放順は固定だと思われるので基本一本道の中、ゲームトップ画面から見れるTIPSや他の情報が良い感じに本編の補足になっていました。
今回はアニメーションも素晴らしく、前作から目パチなど細かい動きが丁寧だったのですが、今作は異能バトルもあり、各キャラクターが能力を発動する際のアニメーションが物語を最高に引き立て素晴らしかったです。


『音楽』
どこか無機質なで灰色の空気を纏ったような曲は地下鉄の空気にとても合っていて、そして外などで流れる曲はセルビアの太陽の光の元、明るさと同時に治安の悪さも感じて。
タイトルにもなっている「ベオグラードメトロ」の地下とセルビアの地上の明るさの違いが音楽で表現されていたと思います。
曲も勿論ですが、SEがとても良く。
人混みのザワザワとした音が他では中々に聞けない完全に異国情緒めいた音で。
自分が英語が出来ない事もあり、「聞こえてくるけど何を言っているか分からない言葉達」が非常に国外を…セルビアの街を彩っていたと思います。


『絵』
Summertimeさんの絵は本当に同人ゲーム界での国宝級だと思っています。
この絵が出ただけでとにかくパワー、パワーis力。
強いです、有無を言わせない独自性があります。
絵だけで感じるダウナーさが作風と完全にピッタリと一致していて絵だけで凄まじい説得力があります。
だからと言ってダウナーではありますが完全に暗いという訳でも無く。
ダウナーな中にあるどこか明る気な感じはキャラクター達が完全に全てを諦めているわけでは無く、「まだどこかに自分の追い求めている物があるのかもしれない…」という微かな希望を感じる明るさもあり。
間違いなくこのサークル様にしか出せない絵柄です。
そして今回はその絵が動くので…最早絵面に関しては最強と言っても間違いないと思います。


『物語』
文章は相変わらず、心理的に切羽づまった時の心境がビッシバッシと突き刺さってくる文章でした。
深く深く考えに嵌まり込み潜っていくような心理状況を描かれるのが本当にお上手です。
異能バトルも頭脳戦がしっかりとありどの戦闘も楽しく。
各キャラクター達が自分の欲しい物や信念を貫く為に異能バトルを行いますが、新しいキャラクターが登場する度に発生する問題や見えてくる人間関係、人物相関図が非常に面白かったです。
ちょっとしたすれ違いから味方側の人間と疎遠になったり。
そもそもかなり自分の考えの元動くので敵味方の境界線が曖昧だったり。
敵だと思っていた人物が実は協力できる人間だったり。
数々の人間の思惑が絡まり合っていく所は非常に面白く、そして皆それぞれで思想を抱えていて非常に(良い意味で)面倒くさいキャラが揃っていて最高でした。
章も区切り良く、一つの章が大体1時間内で綺麗に読めるように組まれているのでストレスがほぼありませんでした。


『好みのポイント』
セルビアの異国感、大変素晴らしかったです!
背景、文章、絵柄、音楽、全てが綿密に絡まり合い、完全に異国の空気が形成されていました。
こう…日本の創作者の方からはあまり出ない空気で、あまり見かけないセンスかと。
洋ゲーから感じる空気…みたいな、とにかく洋の空気が凄まじく、凄まじいセンスだと思います。
操作系の洋ゲーでは感じるのですがノベルゲームでこのセンスを感じる事があまり無いので、文章を読んでいる間、本当にずっとセルビアに滞在しているような気持ちになり、家の中で海外旅行を楽しめました。
あと、非常に食べ物の描写が良く、セルビアの料理が出る度にネットで画像を確認していました。
どれも本当に美味しそうで、非常にお腹が減る作品だと思います。
数々の戦闘シーンがありますが…個人的好みはラストのデジャンVSイェレナ戦です。
…既プレイヤーの方には分かって頂けるはず……





以下ネタバレ含めての感想です





マリヤ様、あぁ!マリヤ様!!
本作は非常にマリヤ様の掌の上でコロコロされるゲームだったな~という印象。
とにかく、金も、名誉も、美貌も持ち合わせ最強過ぎました。
色々な物事が起こりますが、全て彼女が描く理想の上だった感が凄まじいです。
最後はあの結末を迎えますが…あれも彼女の想定内だったのだろうなーと強く思います。
信頼を寄せても居るけれど、同時に破滅した際のシナリオも同時進行で描いている。
…とてもシステマチックな方だと思います…心が読めるとあぁなってしまうのかもしれない…
そういうシステマチックさは「真昼の暗黒」のミサちゃんを思い出したり。
ステマチックな方だけれど、クリア後に読めるTIPSで彼女のシズキに向ける感情は嘘では無かった事も明らかになったり。
もしかしたらシズキのマリヤに対する感情よりもシズキに執着していたのでは…?というのが明らかになり。
理性的でありながらも感情が同時進行で同居している女性キャラを描くのが毎回大変お上手だと思います。
後半、マリヤとのエロシーンはエロシーンなのに機械的な行為なのがエロくないけどエロい…みたいな不思議な気持ちに。
マリヤの「挿れただけでは気持ちよくならない」…とか、男性向けのエロでは中々に描かれない部分で非常に現実的でした。
エロくないけど、その現実感がエロいという不思議。


マリヤもですが、今作、非常に女性キャラがヤバい女揃いでヤバい女大好き教の自分としては大変滾りました。
今現在、現実では男性上位の社会が強い部分がありますが、その中でなんとかなっているのは男性側が女性に対してある程度の手加減をしてくれているからというか…
強者だからもあるかもですが、もっと本能的な部分で「女性を傷付けないようにする」という部分を遵守している男性が多いから成り立っていると思っていて。
今作、女性上位の社会になった事で、女性キャラが能力を遺憾なく発揮して攻撃を仕掛けて来ますが…まぁ、容赦が無くて笑いました。
女性上位になった世界ってわりとマジで女性は男性に対して手加減をする事をしないと思うので、バッチバチに我が強く容赦が無い女性キャラが多く非常にテンション上がったのと、そういう世界背景も有り「ヤバい女」が大量生産された本作は気の強い女性キャラと若干押され気味の男性キャラというえらいリアルなキャラクター付けがされていたと思います。


この世界の背景と、主人公、シズキの家庭環境も有り、シズキが男性としての自分の物理的、心理的な居場所が減っていく姿が非常に見ていて心が痛くなりました。
人生、「逆の性別だったら…」と思う箇所は確かに存在しますが、シズキはあまりにもその部分が多すぎて。
作中社会全体の女性上位だけでなく、生まれた場所、教育、恋、友人、全てに「逆の性別だったら…」が絡まり非常に生きづらい境遇で…
「女だから良い教育が受けられた」「女だからマリヤに近付く事が出来た」という全てが逆の性別絡み、どうしようもない性別という生まれでの事情でここまで人生変わるなんて…こんなん辛いです。
その上「女だからデジャンの領域に割り込む事が出来た」とか…地獄か?
シチュエーションとしては確かに滾りましたよ、「女装した主人公に惚れ込む友人」とか、腐女子歓喜シチュですから。
でも…様々な物が重なったこの状況はあまりにも辛すぎて…デジャンに受け入れられてしまった際のシズキの独白は感情が引っ掻き回されて、ぐわーっ!!となりました。
シチュとしては非常に滾りましたが…(2回目)


無能力者として劣等感を持っていたシズキが本作の中で今度は生まれでどうしようもない性別面でも劣等感を味わっていく…
劣等感に押し潰されるとはまさにこの事、と言わんばかりの状況が降りかかり、常にシズキの居場所の無さ、居場所を失っていく姿がジワジワと真綿で首を絞め付けられるような感覚になり、胃が痛かったです。
…そういう意味では最初から心を読めて男だと分かって接し、そして最終的に抱かれたマリヤは…たとえ二人の性行為の方法が歪で、シズキの男性部分を傷付けながらも同時に一番シズキの男性を認めていた存在で…やっぱりシズキにとって一番特別な人なんだろうなぁと思います。


今作はシズキがそんな過去、数々の出来事が起こったセルビアでの物語をモチーフにしてドラマ用に脚本を書く所からスタートしていますが、過去回想系になった事で「色々あって辛い事もあったけれど、マリヤも居たあの頃」という「もう手には届かない過去」が強く突き付けられて、非常に哀愁漂う作風にもなっていました。
「真昼の暗黒」や「CODA」もですが、Summertimeさんはそういう「決して輝いていたとは言い辛いけれど、今振り返るともう一度触れたい、一番影響されたもう戻らない過去」のようなものを描くのが非常にお上手で…読んでて時の不可逆性に苦しくなりました。


「MINDCIRCUS」の時に若干キャラが多く、上手く回収出来てないキャラが居るなーと感じ、「真昼の暗黒」で少ない人数の方がお上手なのでは?と思いましたが…今作でかなりの人物に見せ場があったので、キャラが多くても魅力的なキャラが沢山!とかなり嬉しくなりました。
ただ、若干もう少し語って欲しかったキャラが居て…
第9(一応資料では見れますが、後半出てくるかと思っていたので…)、ノヴィク(ペトラ)、ミシェル…この辺りをもっと見たかったなという気持ち。
でも、イェレナは「ただのサイコか?」と思った中で予想以上に魅せてくれて。
上記でも書きましたが、デジャンとイェレナのラストバトルは…ちょっと本当に泣きそうでした。
父の死の根本的な原因が自分を育てる費用にあったとか…辛いな…
母子に幸せになって欲しかったですが、最後の最後で能力の暴走が起こったのがもう…見てていたたまれなかったです。


正直、デジャンVSイェレナ戦までは大丈夫なのですが、その後がかなり考察系になっており、個人的な好みに合わなかった…というか分からない所が多い、というのが素直な気持ちです。
「LINES ENDING」は線路から外れている所や情報を見るとおそらくシズキが望んだ創作上の大団円…だとは思うのですが…
「LINE2 DOWN TRAIN」はネデルカ「LINE3 LOST AND FOUND」はデジャン分岐。
ここまでは分かるのですが、「LINE1 TO BE CONTINUED...?」→「LINE4 OVER RUN」が非常に難しく…
最後にシズキが能力をマリヤから貰って、それで「影」の能力が発症した、しかし、それを受け入れられず地下鉄で自害しようとしたけれど、出来なかった…で良いのかな?
自害してしまったら脚本は書けないので生きてるって事で良いはず…「影」の能力的に陽の光の下を歩けないのが生きる上で大変そうですが。
そういう意味で地下鉄…地下で、過去に走り回ったベオグラードメトロで生きるという事なのでしょうか?
うぅん…頭良い人、最後の方の考察をお願いします(人任せ)。


色々と分からない部分は多いのですが、文章、絵、背景、音楽、世界観、全てが完成され尽くされた一作でした。
間違いなく2020年の同人ゲームで上位の素晴らしい作品です。
Summertimeさんの作品は本当にどれも独特な作風を纏っていて…今後もこの独特さで新しい世界が作られる事を楽しみにしています!!