ひっそりと群生

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【夢を確かめる(完全版)】感想

【男性主人公全年齢】



2010年12月31日発売
ヤプシ街道』様 ※リンク先公式HP
【夢を確かめる(完全版)】(PC)
以下感想です。








キミの夢を見ていた、キミに夢を見ていた。
夢を確かめた先に、望む結末がある…のかもしれない。



『3人のヒロイン、
 3つの世界、
 そして物語は1つに“収束しない”――!

 YTIシステム搭載、選択肢の結果を「確かめる」ことができる!
 1日ごとにエンドマークの打たれる物語、どこで読み終えるかはあなた次第!』
(公式より引用)



プレイ時間は約6時間15分くらい。
分岐は有りますが実質一本道。


「YTIシステム」。
「もし今この時、この選択をしたら…」を確かめた後、選択地点に即戻り正しい選択を再び選べる。
そんな「Yumewo Tashikamezuniha Irarenai(夢を確かめずにはいられない)」システム
セーブロードなどをせずに数々の選択を一本道で見る事が出来る機械を手に入れた主人公は3人の女性との物語を確かめて行く。


大学生の田宮という男性と同じ大学の女性、今子との物語。
社会人の田宮という男性と同じ職場の女性、菜乃との物語。
高校生の田宮という男性と同じ高校の女性、菱妃との物語。
名字が同じではありながらもどこか思想や感性に違いがある田宮。
ヒロインとの関係も恋愛だったり険悪だったり友情だったり、全く違う関係を築いていて。
2月14日に始まる物語は一日単位で区切られ毎日「終わり」を迎えます。
「終わる」物語に納得をするか、それともその先を確かめ続けるか。


3つの物語は離れ、近づき、また離れ。
収束はするのか、それともあらすじ通りに本当に収束しないのか、もしくは収束を望むか望まないか。
確かめ続ける事で物語がアチラコチラへと軸を変えます。
起承転結があるようにも受け止められ、でも、全く理路整然としていないようにも見えて。
「終わり」で納得したかと思えば裏切られ、でも再び別の「終わり」を見せつけられ。
その姿はまさに「実験作」。
これほどまでに「実験作」という言葉が相応しい作品も中々無いと思われます。


貴方の望んだ物語は無い、けれど、望んだ物語通りに受け取る事も出来る。
物語の受け止め方は千差万別、十人十色、読んだ人の数だけある。
それを体現したような作品でした。



『システム、演出』
NScripter製。
基本性能有り。
「YTIシステム」は物語の根幹に関わるという意味では面白かったです。
ただ、画期的なようには見えますが、単純にシステムとして見ると「単にBADENDを速攻で確認できるシステム」なだけになっていた所は残念。
もう少し「ゲームシステム」として練り込まれていたら更に内容と綿密な関係が出来、グッと来たとは思いますが…プログラム的な意味で難しいとも思っているので、仕方ないとも思っています。


『音楽』
素材曲、オシャレな曲が多かったです。
歌唱曲が2曲ありオリジナル。
アイドルソングは電波っぽさがあり可愛らしくとても良かったですがED曲が曲自体は良いのですが若干歌唱力が…
ただ、どちらも同じ方が歌唱なので、歌われている方の声質的に電波系というかロリ声系統の歌い方が合うのだと思われます。
EDでいきなり音程がブレブレだったので聞いてて不安になりました。
「YTIシステム」仕様時の「キュイーン、ドン!」というSEは作中で何度も聞くので印象深かったです。


『絵』
ヒロイン3人とアイドルの少女に立ち絵とCG有り。
立ち絵は表情パターンが多め、イベントCGもここぞという時には入ります。
個人的に険悪な関係で常にしかめっ面の菜乃が、水族館のシーンで笑顔になった所でギャップに撃ち抜かれました。


『物語』
正直文章はかなり個性的というかクセが強かったです。
単純に読み物としては文体が合わないと感じた所もありました。
ですが、そのクセもまた田宮の違いを上手く描けていました。
どこかイキリを感じたり、ネガティブダウナーだったり、テンションが高過ぎたり。
そのどれもどこか距離を置きたくなるタイプで絶妙に痛々しく。
大学生、社会人、高校生、それぞれベクトルが違う濃さの違いが描かれていて、それぞれの抱えている不安や苦悩や悩みが滲み出ており、差別化が上手かったと思います。
ヒロイン3人もそれぞれ控えめに見えながらも自分を過信している所があり、どことなく田宮とはまた違う地雷っぽさがある所が絶妙。
人の負の感情の描き方が上手いと思いました。


『好みのポイント』
そういう細かい所の心の機敏な動きの描き方が上手い上で、後半で2回ほど手のひらクルクルとされる箇所が有り。
そのどれもに作者、作り手の方の主張が強く。
コロコロと展開どころか内容そのものも変わり、どれが真実か、何が最初で最後なのか分からなくなるのが作中の引用も合わさり本当に「蜃気楼」や「陽炎」など掴めない物のようで。
「実験作」で、そして同人的で、主張が強くとても良かったです。
確かめて確かめて確かめて、その先で確かめ過ぎるからこそ訳が分からなくなる感覚がお見事でした。





以下ネタバレ含めての感想です





例え起承転結が無くとも、理路整然としていなくとも、混沌であったりあやふやであっても、何かが作り上げられた時点でそれは物語として存在している。
「プレイヤー、読み手の読み通り、思い通りにしてなるものか」という気持ちと「それでも、任意で好きな所で終われるのだから貴方が求める結末で終わって下さい」という気持ちが混在しているような、そんな作者様の主張を強く感じたゲームでした。
作中で何度も出てくる「蜃気楼」という作品を読んだ事は無いのですが、作品でのあらすじや説明をそのまま受け止るのなら、「記憶に残らないほどに何があったか分からない作品であり、起承転結がしっかりしておらずあやふやな作品」で、それでも「蜃気楼」が現代まで残り続けているのは、どんなにあやふやでも物語は物語として発生したらそこに存在するからであるという事なのかと。
勿論、芥川龍之介という作者の圧倒的知名度があるからこそ、どんなに目立たない作品でも残っているという事実は間違いなく有るとは思いますが、そういう物語外からの補正も含めて、物語は完成するのだとも思います。
物語は物語として作られた時点で存在し、その後「物語」そのものは不動であり、後は受け手によって受け取られ方が変わる。
そんな受け手によって変わる物語、なら「物語は受け手の望むように、望まれるように作らなければならないのか?」。
いや、答えはNOで、「受け手が納得しない形で作っても良いし、何が答えか分からない作品を作っても良い」。
「それでも、多くの受け手が求める物語を作りたい」、創作の自由と、創作するからこそ多くの人に受け入れて欲しい気持ち、そういうアンバランスでありながらも創作がある上でとても納得出来る気持ちをEDを迎える度に感じました。
ヒロイン3人が何らかの「創作者」な所もまた、作品の主張に合っていました。


本作は大きく分けて4つのEDがあります。
一つ目は序盤の日にち毎のED、二つ目は「夢を確かめる」のED、三つ目は「もっと確かめる」のED、四つ目は「それでも確かめる」のED。
EDが進めば進むほどに主人公の存在も、立ち位置も、ヒロインの役割も、どちらが居る方がリアルでどちらが居る方がゲーム世界内なのか分からなくなり、何もかもが変わる本作。
じゃあ、正しいEDはどれなのか?
それこそが「多くの受け手が求める物語」であり「どこで読み終えるかはあなた次第」のあらすじにあると思っています。
つまり、この作品は「どこで読み終えてもEDである」という事。
「受け手が一番納得出来るポイントこそが、この物語の止め時」なのだろうなと。
かなり変化球でズルさはありますが、つまりはそういう事で。
物語というのは「受け手によって変わる」のならば、「受け手がEDを決めても良い」という事にも直結するのかなと。


もしこの解釈で進めても良いのなら、自分は受け手として「もっと確かめる」のEDが好みのEDでした。
今まで逆パターンに触れた事はありましたが、このタイプに触れたのは初で。
この場合、確かにあの序盤の拗れ具合にも納得が行くというか、ヒロインへの塩対応やヤバい対応にも納得が行くというか。
そりゃあこんな相手に対し望むように尽くして尽くして尽くして…相手が喜ぶ未来を掴み取らないといけない状況なんて正直反吐が出そうになります。
消費される側の苦悩というか、ラストで殺意が芽生えるのも納得というか。
そういう意味では今まで見たパターンとは真逆を行きました。
基本、この手の場合はリアルに恋をしている事が多い為、「相手の求めるように振る舞うのに嫌気が指し、最後には反逆する」という…リアルに殺意を抱いているタイプになっており、非常に面白みがあり、アイドル(偶像崇拝)の方に心を寄せているというのもまた納得出来、面白かったです。
このタイプは「恋」をしている事が多い為、今作の様に一作でも「怒り」を抱えているのも有りだと思いました。
どこかで見かけたキャッチコピーがクリアすると大変納得で。
確かに本作は攻略される側の物語でした。


ただ、主張などは大変好きだったのですが、やっぱりどうしても思う部分もいくつかあって。
一つ目は「どこで読み終えるかはあなた次第」とあらすじにあったのですが、一本道にした結果、どうしてもラストEDである「それでも確かめる」が本筋のEDにはなっており。
やっぱりゲームプレイヤーはEDがある以上、それが見えてる選択肢なら「確かめ」ざるを得ないんですよ、ゲーマーの矜持というかなんというか。
そういう中で正しいEDロールがあるEDがあるとやっぱりそれこそが正史EDになってしまい。
「どこで読み終えるかはあなた次第」「好きなEDをEDにして良い」という作りになっていても「ラストEDが正史なんだろうなぁ」と思ってしまうというか。
それならば一本道では無く、平行分岐にしてEDに辿り着いた後に、「このEDで納得しますか?」みたいな選択肢を出して「納得しない」を選ぶと分岐前の選択肢に戻るような「YTIシステム」を組み込んでも良かったのでは?とも思ったり。
EDに関しても「確かめずにはいられない」とありますが、選択肢関係無く田宮が「YTIシステム」を起動する箇所が多々ある為、「絶対に「YTIシステム」を使っている」という道しか辿れませんが、もし、全部の箇所で「YTIシステム」の選択を出来、「確かめない」道を選び続けたらどんな結果が見れたのだろうなども思ったり。
そういうプログラムの面でも「YTIシステム」とリンクがあったら面白いのにとは思いました。
ただ、本作は「夢を確かめる」というゲームであり、並行分岐では無く深く潜っていく事に意味があるとも同時に思うのと、一度クリアをするとタイトル画面から「夢を確かめる」「もっと確かめる」「それでも確かめる」を任意で選ぶ事が出来るので、それこそが「YTIシステム」であり、好きなEDを選べる…という事かもしれませんが…
でもやっぱり、ラストの「それでも確かめる」EDがスペシャリティがあったなぁとは思います。


二つ目は単純に作中の下ネタが合わなかったです。
文体が独特というか、クセが強いというか…
心理描写とか雰囲気描写とかに長けてるとは思いつつも、合うか合わないかで言ったら合わず。
なんとなくですがテンション高い時の文体や下ネタのノリで田中ロ◯オさんを思い出しました。
(PS2版のクロチャしかプレイした事が無いので断定は出来ませんが。)
自分はあまりロ◯オさんの文体が合わないタイプで…なので、ここはもう向き不向きとしか言えないのですが、テンション高い時のノリに付いて行けない時が若干ありました。


三つ目は引用が多い、5分の1くらい引用が入ります。
自分が文学知識どころかサブカル知識もあまり無くちんぷんかんぷんタイプなので、引用が出る度に置いていかれました。
これは知識量とかの問題なので仕方ないかもですが、漫画とかのサブカルも有名でもあまり知らず…ギリギリ分かったのはジョジョの有名なネタくらい?(しかもジョジョも未読。)
基本的に引用が多過ぎるとどうしても知識を語ってるだけにしか見えない事があり(妬みとか僻みかもしれませんが…)、あまり引用が多過ぎる作品が好みでは無い為、引用を語ってる場面ではずっと心が無の状態になってしまい。
特にラスト付近の今子の演説は「分からん…どうしよう…「芥川の時代の女性の価値観と今の時代の女性の価値観を一緒くたにして芥川の女性問題に対しての意見に物申すのは違う」という事くらいしか分からん…」という状況になり、ずっと宇宙猫状態になっていました。
まぁ、その部分も「昔の創作の価値観を今の創作の価値観で断罪するべきではない」という主張にも見えて面白かった所ではあります。
一言で言えば、少しだけ引用して物語に組み込むのは好きだけれど、引用が多過ぎると自分の好みでは無いのでこの部分は合わなかったです。
これもまた好みの問題なので仕方ない…
文学に詳しい知識人がプレイすると作中引用の全ての内容とそれに紐付く意味が理解出来、また180度感覚が変わりそうだなと思いました。


「どこで読み終えるかはあなた次第」で「貴方の好きな展開のEDで任意に終えられる」という事で「沢山の受け手に受け入れられる作品を目指す」、方向性としては非常に好きなのですが、作品はEDだけが全てでは無く、EDに辿り着くまでの段階で文章だったり雰囲気だったり見せ方だったりで向き不向きはあり、その部分に至っては本当に個人の「好み」の一点しか無い為、万人受けというのはとても難しい物だと思いました。
本作は文学的知識を持っているか持っていないかでも理解に大きく差が出る所もあって、そういう部分も「万人受け」からは遠ざかってしまった所があるなと。
そして自分が文学的知識が皆無過ぎたので、そういう「知識前提」という意味では自分に合わなかったのだろうな…と思っています。
もっと知っていれば変わったのかもしれませんが、知らないままクリアしてしまったのでそこはもうやむ無し。


ただ、「どんなに起承転結が無く理路整然としておらず意味不明でも物語は物語として書かれた時点で物語として存在する」という部分やメタ的要素、ラストの展開や短い中ででも描きたい事が描かれ主義主張はとても強く。
昨今はインディーズで幅広くこういう題材が描かれてはいますが、2010年の商業では中々に出来ない題材で同人らしさを感じ、とても良かったです。
あと「それでも確かめる」を起点に考えるとちえりを中心に全物語が回っていて、夫婦萌え持ちとしては大変滾りました。
全部の確かめるでcherryが軸になっていて「田宮のcherry or ちえりへの執着…」となりますし、ラスト一瞬しか出ないつがいキャラとか好きで好きで…
パケ絵でcherryが他ヒロイン(菱妃)を侵食してる感じも好き。
一瞬しか出ませんが、妻をアイドルにしておっかけてたり、「それでも確かめる」の進行役にしたり、更にはヒロイン全員が登場しても尚、桃子をメインヒロインにしてたりで妻を中心に回ってて、夫婦萌え持ちとしてはどの階層の「夢」にも妻が中心な所がとても好きです(好きです)。


そもそも辿った順番があるので分かりやすい「入れ子構造」で受け取ってますが、「もっと確かめる」と「それでも確かめる」が同一世界上で田宮だけ共有している可能性もありますし…まさに「受け手の数だけ物語がある」という状態に。
そしてこの解釈すらもまた「受け手が勝手に読み取った物になる所」が面白い。
まさに「実験作」。
「物語は1つに“収束しない”――!」とはあらすじにありましたが、「じゃあどういう終わりを迎えるんだろう?」と進める度に終わりが見えなくなって行く不思議な作品でした。
独特な方向性の作品に触れる事が出来、「先が見えないドキドキや不安」を楽しむ事が出来ました。


そして、プレイ中、「夢を確かめる」で自分も物語に起承転結や理路整然や収束を求めており、「主人公は同一人物なのでは…?」という予想を付けてた上で「貴方が物語にそうあって欲しかったからそうなった」と言われたら、もうそれは負けですよ、私の負けです。
先を読まれ先手を打たれ、負けを認めるしか無かった所はとても大きかったです。
私は、この物語に、負けました。
ノベルゲームでここまでの敗北感を味わったのは久々です。
今回オススメ頂き、清々しい程の敗北感を味わえる事が出来良かったです、有難うございました!!





最後に、感想とは関係が無いので下の方に失礼しますが、再販のご予定やDL販売のご予定、おめでとうございます!
今年の半ばに色々とあったので、ご心配して遠くから伺っていましたが、色々な出来事をプラスに持っていくパワーを感じ、とても安心しました。
この感想はプレイ後すぐに書いていましたが、様々な事情から掲載するかを悩んでいました。
ですが、今回、良い方向に作品の再販などが動いて行くのをお見かけし、今年最後の感想として掲載させて頂こうと踏み切りました。
間違いなく「刺さる人には体の急所全てに刺さる」ような作品です。
是非、本作を急所に受け、人生を変える出会いをされる方の元へ届く事を祈っています!!