ひっそりと群生

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【ヘクソカズラ】感想

【女性主人公全年齢】



2019年07月22日配信
丹綿樫』様 ※リンク先公式HP
ヘクソカズラ】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








物語は変わらず脚本は変わらず、最後まで舞台の上の演技は続き儀式は終わり幕は閉じる。



『――それは、瑣末なこと。――
 交通事故で両親を亡くした美華。ところが母親の遺体は、故郷へ引き取られてしまった。
 母親の最期に立ち会う為、ひとり赤座山へ向かう……。
 辿り着いた集落で出逢ったのは、「大文化研究会」を標榜する少年少女の集まりだった。
 ひと夏を壇蛇羅集落で過ごす、フリーアドベンチャーゲーム。』
(公式より引用)



丹綿樫様の作品は『点鬼簿行路』(※リンク先感想)に続いて2作目プレイになります。
プレイ時間は一周は約8時間くらいだったと思います。
2周目からはスキップで飛ばせる箇所があるので1、2時間くらい。
選択肢有りでEDは4つ。


母を弔う為、母の故郷に帰った主人公の美華は壇蛇羅という村に行く。
村の巳子であり8月30日の誕生日の儀式で存在が消える役目を負った美華の姉の五十鈴、五十鈴の儀式に肯定的ではない兄の弓弦、村の子供のリーダーであり常に電波を受信し何者かと話している少年宗雪、宗雪と行動をよく共にする窃盗癖がある少女小町、美華に冷たく接する異国人じみた金髪の少年英、自分と母との子供を一人で育てている少年尚孝、駄菓子屋で恋人の男性と共に暮らしている義足の少年尊、「巳子仕え」の役職を持ち子供のまま時が止まってしまった少女あざみ、占いの露店を開くあざみの妹菊乃、あざみを大切に想う男娼の千陽。
それぞれで物語を描かれそうなほど個性豊かな少年少女に出会い、夏休みの間、村の土着信仰を知っていく事になる。


土着信仰がある村に行き、その村の土着信仰に巻き込まれる…かと思いきやそうでも無かった所が印象的でした。
美華はあくまでも部外者で、その土地の信仰をどうこうする事は全く無く、ただ夏休みの30日を淡々と村の人々と過ごす事になります。
美華は普通に過ごし、儀式は滞りなく行われ、村は特に変わらずに有り続ける。
この手の作品でよく見かける「主人公が強く関わった事で運命が変わり大きな物事が動く」という事も無く…ただ目の前で行われる決められたあらすじを辿る…というのが作中の演出もあり舞台を見ているかのようで。
主人公であり舞台上に居ながらもどこまでも淡々と客席から舞台を見続けるような立ち位置の美華。
彼女によって物語が変わる部分があるとするなら、それはきっと脚本に書かれていないエピローグだけなのだろうなと…そんな風に思いました。



『システム、演出』
ティラノ製。
オートモードとコンフィグは無し。
なので文字表示速度の変更は不可能でした。
スキップには対応しているので既読箇所を飛ばせますが、ロードして始める際に始めた箇所のシーンは飛ばす事が出来なかった所と、一部演出で五十鈴と話している際に昔の映像のような表現をする箇所で止まるようになったのは大変でした。
一度既読済みだったのでスキップで飛ばす事で止まるのを回避出来ましたが、数箇所止まりそうで危うい所があります。


『音楽』
曲自体はそんなに多くは無い感じなのですが、オルゴールやピアノ、ギターなど楽器単品で物寂しげな音楽が奏でられ、田舎の寂れた集落という雰囲気がとても出ていました。
効果音が無く虫の音や秒針の音だけだったりする箇所も多く、人の少なさを感じとても良かったです。
日付が変わる所々で入るボイスドラマが幕間に役者が一人で心情を語っているようで作中の補完になるので是非飛ばさずに聞いて欲しいと思いました。
EDが個人的にとても今作に合っていて好みです。


『絵』
キャラの一枚絵、CGは無いのですが所々で蛇の神である壇蛇羅様の絵や人では無くなり魂だけになった今までの巳子達の姿が挿入され村の不気味さが際立っていました。
キャラの立ち絵は豊富で少年少女達のみですが大人の立ち絵が無かった所が逆に「子供だけの世界」を感じて良かったです。
会話中、キャラが特定の行動を起こすと人を外れた姿に見える演出が人知を超えた村だという事をひしひしと感じました。
主人公の美華の立ち絵も表示されるのですが、美華が最も表情パターンが少なかったと感じた所に彼女の特異性が現れていました。
背景もどこもかしこも腐ちていて…ほんの少しだけ人工物がある退廃的な村の空気が背景からも感じ取れて雰囲気がとても良かったです。


『物語』
基本的に文章は読みやすく、展開は分かりやすかったのですが、所々で舞台調に感じる台詞回しが難しくも面白かったです。
キャラクターが途中で舞台の台詞を読むような箇所はどこか明治~昭和初期のような空気を感じ。
演出も相まってノスタルジックな雰囲気がありました。
結論から言うと壇蛇羅様が何なのか、巳子とは何なのか、堕ちた村とは何だったのか…などは分からないままですが、その分からなさが土着信仰を際立たせていて。
基本分からない物が多いとモヤモヤするタイプなのですが、今作は雰囲気や作風から逆に「人には理解出来ない事が神の世界である」という空気を感じ、良かったと思います。
夢で猫の視点になって他キャラの別の情報を得るという所も。
主人公のままでは得られない情報を別の…それこそ猫になった茜様の視点で見る事で補完していたのが良かったです、
直接的な描写は無いのですが所々で深読みすると「それって…」と感じ取れる性的描写や、大人が描かれず子供だけの中で性にかなり奔放な描写が多い部分も人里離れた独特の信仰のある田舎物として個人的にとても好みでした。


『好みのポイント』
とにかく主人公の美華が何事にも動じず凄かったです。
村の住人の価値観が独特なのは都会などの一般層から離れた村なので分かりますが、都会…というかコチラ側で育ったはずの美華もちょっと普通とは違う…という娘で驚きました。
好奇心は旺盛で色々と聞くけれど、帰ってきた返答がかなりパンチが効いたものでも全く動じてる様子がなく…
各キャラクターの境遇を聞くとかなり驚きの返答が多いので、ただ読んでるだけの自分ですら「読み間違い?」と驚いて履歴を読み返すのに美華は全く顔や態度に出ず。
凄い情報をスルーしたり淡々と受け入れたり、「驚いた」と地の文であっても全く表情にも出ず。
どこまでもどこまでも客席から眺めている傍観者のような反応が独特で、美華の反応もあった事でこの作品は舞台の上で完成されていたなと思います。
(所々で出てくる小町の一目や英の顔の「福」の仮面、尚孝の赤ちゃんが人形に見えた所も舞台っぽさに拍車をかけていたり。)
彼女は人と関わるけれども客席から見ているだけの存在で…だから内心驚いても表情には全く出ない…という事なのかな?と思っています。
好奇心はあって聞いても嫌悪したり否定したり踏み込みはしない所がこの村の住人から受け入れられた所だとも思い。
特別な力も無く無表情で無頓着で無個性に見える所がまさに個性的で、独特であまり見かけない主人公でとても好きでした。





以下ネタバレ含めての感想です





最終的にどのルートでも「犬の儀」は変わらず。
五十鈴の存在は消えてしまい、あざみ以外の村の住人から見えなくなってしまいますが、美華は巳子が見えるのでとても不思議な感覚でした。
美華が巳子を見える所もまた「客席から巳子の役者は見えているけれども舞台上の役者は巳子を認識する事は無い」ような状態に見えて。
何も救えず救おうともせず、何にも介入出来ず介入しようともせず、ただ4人の少年との関係が最後にほんの少しだけ変わる…というのが最後まで美華らしい終わり方で、最初から最後まで「美華」という主人公が傍観者のまま終わった事が退廃的な空気を纏うこの作品に合っていて良かったです。
以下、各ルートの感想。


「弓弦END」
一番最初に辿り着いたEDです。
関係性萌えとしては一番好きなED。
弓弦の五十鈴への妹を越えた想い…最高でした。
弓弦と五十鈴はただ添い寝していたのか…それ以上の何かがあったのか…深読みするとドキドキします。
幼少期に美華が出ていった事で寂しさを覚え五十鈴に執着するようになり、けれど五十鈴への執着は本物になり。
例え美華が帰ってきても五十鈴への気持ちは本物のままに儀式を拒み続ける。
「相手には自分以上に大事な人が居て、ED後も一応一緒に居て寄り添うけれど決して恋愛には発展しない」、そんな関係が最高に最高でした。
こういう…相手には自分以上に大事な人が居る…みたいなタイプ大変好きです。
美華も恋愛という意味で好きという感じでなく、五十鈴を救えなかった事を気にかけて五十鈴の代わりとして弓弦と一緒に居る…そんな3人の関係図が地獄絵図で…
「犬の儀」がある以上、運命を変えない限り彼ら三兄妹全員の心が救われる事は無いのですが、この作品ではそんな都合の良い事は起こらず…
一番ビターなEDですが、関係性では最高に好きです。
OPの語り部は…弓弦なのかな?と思ってます。


「英END」
二番目に辿り着いたED。
ツンツンデレ、素直になれないイケメン童貞野郎最高じゃないですか?最高。
主人公へのデレていく過程や素直になれない所は見てて微笑ましい。
所々で出てくる「福」の仮面は表向きだと嘘を吐いている時に出てきて逆さだと本音が出ている時に出てきていた…のだと思いますが。
その解釈で行くと…本当に絵に描いたようなツンデレで笑います。
最後まで素直になれないまま、でも手紙は絶妙に気持ち悪い辺りが残念なイケメン。
美華がリードしていく構図が大変可愛らしく。
恋愛的に一番好きなEDは英でした。


「宗雪END」
三番目に辿り着いたED。
一言で表すなら「運命」。
最初から美華は宗雪の事は気にかけてますし…「彼は一番普通だった」とあるように確かに色んな価値観を取り入れようとする姿を考えるとこの村の中では普通なのかも。
謎の電波を受信したりする所は謎のままですが、壇蛇羅様に気に入られてたから…なんでしょうか?
EDは恋愛的に結ばれては無いけれども再会は約束する形がとても良かったです。


「ノーマルEND」
最後に辿り着いたED。
別名、尚孝ED。
尚孝がノーマル扱いなのは驚きましたが、美華の事を最初から好きなのはおそらく尚孝なので納得。
ED…は不穏ですね…痣というのはおそらく「犬の儀」の痣で…
よく考えたら美華の家系そのものが巳子の家系なので彼女の子が次の巳子の可能性もあり。
尚孝と幸福な家庭を築いて欲しいけれど、そうは問屋がおろさない…みたいな。
巳子の母になる事で美華も初めて傍観者ではなく舞台上に引き上げられそうなEDで…
不穏さでは一番好きなEDでした。



クール系主人公が好きなのと、甘々した恋愛中心にならない男性にルート分岐がある女性主人公物が好きなので大変好みな作品だったのですが、一つ言うなら…
個人的に千陽や尊のEDが無いのが非情過ぎる!!
と思った所です。
千陽にはあざみが居るし尊にも恋人が居てそこは大事なのですが、恋愛中心にならない分、千陽のルート分岐であざみと色々ある姿や尊のもっと踏み込んだ過去を見たかったです。
というか今作、少年が魅力的なキャラが多くて…(その分若干女性キャラが薄いとも感じたのですが…)
少年が好きな人には絶対に刺さるキャラが一人居る!というレベルで魅力的でした。
しかも皆良い感じに土臭くて…
「乙女ゲーの土遊びとかした事無さそうなキラキラし過ぎている男性キャラ」が苦手な自分にとっては大変好みの男性陣でした。
弓弦、英、宗雪、尚孝のその後のお話を読みたくもなります。
また猫や別の視点になって千陽とあざみの物語や他のキャラ同士の掛け合いなども見たいと思い。
FDのような感じでアフターストーリーを見たいくらいでした。


ヘクソカズラ花言葉は「人嫌い」。
確かに…様々な人間嫌いが集った話だなとは思いました。