ひっそりと群生

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【凪ノ恋】感想

【男性主人公全年齢】



2021年08月30日配信
『Nutrients』様
凪ノ恋】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








激動の時代の下、君と出逢った。



『・睡蓮ノ章
 その男は記憶を失っていた。
 自分の名前すら思い出せない彼を救ったのはスイリンという少女だった。
 男は『カイ』という名前を与えられ、居場所を、生きる意味を与えられ、
 スイリンのためにと、その生を意味あるものへと変えていく。
 ナギドリが鳴く、その海の向こうで。
 カイの記憶は眠っている。

彼岸花ノ章
 この国を治める公になることがマサヒデの夢だった。
 しかし夢は自我と共に砕け散り、自尊心すら抱かなくなり。
 国の歯車として生きようとする彼を叱咤したのはサハナという少女だった。
 政略結婚という愛のない契りを交わし、マサヒデはサハナと共に変わっていく。
 二人の関係は少しずつ熱を帯びていき、やがて諦めかけた夢を志すようになる。』
(公式より引用)



プレイ時間は約3時間30分くらい。
分岐有り。


舞台は「日ノ和」という国、江戸時代のような文化がありながらも西洋のような他国と緊張状態のあるオリジナルの和風世界。
記憶を失った青年、カイが「日ノ和」にありながらも他国の支配下にある「湾欧」という場所のカカラ村に住むスイリンという少女に拾われ救われ、元から培っていた知識によって村を救い村に受け入れられ、穏やかに緩やかに彼女の「家族」になっていく「睡蓮ノ章」。
国の三権力の一つである倉敷家の次男であるマサヒデが同じく三権力の一つ天久佐家と強い結びつきを得る為に天久佐の長女サハナと政略結婚が結ばれる中でお互いに影響を受け合い「家の傀儡」では無く自分を見つめ惹かれ合って行く「彼岸花ノ章」。
全く違う境遇の主人公がそれぞれで少女と出会い、自分の居場所を見つめ、生きる場所を見出していくオムニバス作。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
OPムービーや開始時に章を選択する際のアニメーション演出の動きがとても良かったです。
話も数分で区切りが付きアイキャッチが入る為、テンポ良く読み進める事が出来ました。


『音楽』
素材のBGMはとても和風の世界観に合っていて聞いていて江戸~明治の激動の時代が切り替わる時のような雰囲気を音で感じ取れました。
OP曲とED曲はおそらくオリジナル歌唱曲。
OPのドキッとするような始まりに似合う壮大な和風曲と、各章ヒロインが歌うED曲はどちらもどこか切なさがあり、話の締めに相応しいほどに儚さと健気さが備わりヒロインにピッタリの歌詞と曲調で、オリジナル曲の強さがあった素晴らしい曲でした。
クリア後に音楽鑑賞モードが無いのは残念だと思います。
音声はヒロイン二人とヒロインに関わるサブキャラ女性二人の4人がフルボイス。
全員声質が合っていて、スイリンの取り繕わない演技とサハナのキリッとハキハキした演技、シェンファの気怠げだけど思いやりのある演技とアオイのどこか小悪魔めいた演技、全員がお上手でフリゲのフルボイスもどんどんお上手な方が沢山出てきて嬉しくなりました。
ただ、フリゲとしては許容範囲内ですが、若干アオイの方の録音環境だけが気になりました。


『絵』
「睡蓮ノ章」と「彼岸花ノ章」でキャラクターデザインの方が違い、絵柄が違いますが、これが見事に「作中で言及される人種の違い」を表現していたと思います。
スイリンは素朴で愛らしく、サハナは可憐で凛々しく、どちらのメインヒロインも表情豊かで大変可愛く。
サブキャラで立ち絵有りのキャラもそれぞれ性格をしっかりと表す表情をしていて、重要なシーンには一枚絵が入り、飽きは無かったです。
ただ、こちらもまたクリア後に鑑賞モードが無いので、音楽同様に鑑賞モードは欲しかったです。


『物語』
オリジナルの世界観ではありますが、一応時代が江戸~明治くらいの文化があり、作品の中で何度も国家権力関係の話が出て時代めいた言葉や歴史に無い名家の名前が出たりした為、権力や家柄の関係図を頭の中で整えるのが若干難しかったです。
本質はそこでは無いのですが、権力争いのターンになるとちょっと置いていかれそうになりました。
それでも、メインはヒロインとの関係の構築だった為、オリジナルの文化を下地にしながらヒロインと色々な状況を乗り越えゼロから関係を紡いでいく流れはタイトルにある通り非常に「恋愛物」となっていて、恋愛関係への変化はとても丁寧に描かれていました。


『好みのポイント』
「睡蓮ノ章」は海辺の村で静かに静かにスイリンと育む関係が愛おしく。
彼岸花ノ章」は権力争いの渦巻く時代でそれでも互いに自己を見つめ合い強くサハナと進む姿が逞しく。
それぞれ段階をちゃんと踏みながら主人公とヒロインの関係が構築されて。
どちらのヒロインも魅力的で、それぞれの立場でゆっくりと積み重なっていく大事な想いはまさに凪。
タイトルに似合う、そんな凪のような恋でした。





以下ネタバレ含めての感想です





…そんな凪のような恋だったはず………
はずなんです。
「時代編」で嵐のような恋になりビックリですよ!!!
自分は「睡蓮ノ章」→「彼岸花ノ章」と進み、「睡蓮ノ章」のEDで不穏なEDを迎えた辺りで、「あれ?ひょっとしてまだ続く?」となり。
彼岸花ノ章」で物語が綺麗に終わり、「あれ?「睡蓮ノ章」だけその後とか来るかな?」と構えていました。
確かに構えていましたが…両方クリアで「時代編」が出て「おっ」となり、船のシーンが流れて。
いやね、予想してなかった訳では無いんですよ、この展開が予想出来なかった訳じゃない。
それなりにノベルゲームやってるので、「最悪の展開」はそれ相応に身構えて居たんです、居たんですが。
彼岸花ノ章」の途中で「兄のハルヨシが行方不明に」とあってこの章では別に主人公の身には特に何も無かったので、「無いよな?無いよな??」と信じてたのですが。
まー、船のシーンから崖のシーンに行き、ものの見事に裏切られましたね!!
作者様の意地の悪さ(褒め言葉)というか性格の悪さ(褒め言葉)がしっかりと感じられて、「キーーーーー!!!」となりました、「キーーーーー!!!」。
「睡蓮ノ章」と「彼岸花ノ章」、どこかで邂逅を果たすとは思っていましたが、もう、最悪の形で出会ってしまい、そこからはひたすらに凹む凹む。
主人公が実は同一人物という、予想はしてたのですが、「章編」であれだけ優しく穏やかな世界観を構築しておいて、ドロドロの三角関係にするとは思ってなかったですよ!!
いや、まぁ、サハナ…はまぁ若干性格が硬いですが卑怯なタイプでは無く、スイリンもまた負の側面が無かった為、「女の醜い情念が交差する」というドロドロにはならなかったのですが、主人公がお国のお偉いさんの息子という事で国のドロドロには巻き込まれますし、三角関係自体には間違いは無いので、後半完全に三角関係物でした。
「国の為、サハナの元に戻るか、スイリンの為、国を捨てるか」そんな三角関係物。
去年、「WHITE ALBUM2」と「鼓草」をプレイして胃を痛めた私に対する挑戦かな?と本気で思いました。
どちらのヒロインも主人公と恋仲になり夫婦になる過程がそれはもう丁寧に丹念に描かれるものだから余計に辛く。
「章編」では全くOPが流れず「章編」のEDロールで「主題歌」とあったので「いつになったら歌が流れるんだろう」と思ってた中であの崖のシーンからのOPで、流れと演出の良さと同時にズルさ(褒め言葉)を感じました。
ズルい、あのOP開始はズルいです。


一応後半にちゃんと選択肢が出て、サハナを選ぶかスイリンを選ぶかが出る為、プレイヤーもしっかりと選択に介入できる所は大変良く、ゲームとしては「ヒロイン選択がしっかりと出来る三角関係物」となっていて満足度は高かったです。
どちらもその後にBADやメリバなどの変化球も無くそれぞれのヒロインと添い遂げるEDを迎えるので、スッキリとしたEDを迎えるのでEDとしては心にしこりが残り続ける…みたいな心境にはなりませんでした。
まぁ、ただ、個人的な好みでここから語ると、スイリンとサハナ、どっちを選びたいか?と言われれば…自分はスイリンだなーと。
理由はいくつかありますが、一つ目はサハナが「持っている側」な所ですね。
勿論生まれから「厄落としで切り捨てられる長女」として扱いの悪い境遇だったサハナですが、全体を通すと衣食住には困らない家庭であり権力に目が眩んでいるとはいえ最後には改心してくれる父がおり、離れ離れとはいえ仲が良かった姉妹がおり、ノブカゼという家臣に(予想外の行動は起こされるけれど)慕われているんですよね。
なので見ているとどうしても「持っているからこその不幸はありつつも、孤独では無い」というのが見え、その点スイリンは本当にシェンファや村はありますが母も父も亡くし孤独で、その上、サハナの家が一声かければ村を滅ぼす事が出来るほどの弱者側なんですよね。
なのでどうしてもやっぱり「可愛そう度」というか「弱者」としてスイリンに肩入れしたい気持ちはありました。


二つ目は単純にサハナの「湾欧人」への対応やどこへ行っても上から目線で語る所。
これはもう生まれと家柄と教育のせいだとは思いますが、「湾欧」という地に自分が行き、自分が異邦人なのにシェンファに強く物を申しますし、自分達が収める側の「日ノ和」のせいで「湾欧」へ公害が流れ公害病が発生しスイリンの父と母、そして村人が沢山死んだと言うのに「開発された特効薬を受け取れなかったのは「湾欧」が他国に寝返ったからだ」と火に油を注ぎ「自分達は決して悪くない」というような威圧的な態度をしていたのがどうしても受け付けず。
まぁ教育で「「湾欧」は悪」とされてきたと思うので仕方ないとは思いつつも、流石に身内を失った人間に対する態度としては人道的にどうなのよ?と思ったり。
「湾欧人」や波長の合わないシェンファに対してキツイのはまだ分かりますが、妹のアオイに対してもその気があり。
アオイの居る奥見に赴いた時もアオイの心境を考えず威圧的に自分の事ばかり語り…ようはあまりにも上の家に居すぎて「相手を思いやる心」が欠けてるなーと思う所が多々ありどうしてもサハナの強い言い方を受け付けない所がありました。
しかもスイリンは公害の原因になった国を決して憎むような事も言わず、どこまでも善性を貫くのでこう…自分は「突飛つした強力な性格の悪さ、クセの強さ」などが無い場合は「善人や聡く優しい人間」に傾くので、ちょっとスイリンに軍配が上がってたなーと。


三つ目はヒロイン選択後にはほぼお国の話にシフトし、お国事情が絡まるのですが、サハナを選ぶとサハナはずっと出てくるのですが、スイリンを選ぶと後半どうしてもスイリンが空気になっているように感じて。
サハナルートだとCGが多く、スイリンルートだとサハナルートでのスイリン別離シーンのCGが使い回しで出て来たりで、若干サハナ贔屓を感じたり。
サハナルートだとハルヨシの正体が明かされ力強い戦いがあったり、スイリンルートに行くと特に正体は明かされなかったり。
サハナルートに行くとスイリンとの別離は特に描かれず、スイリンルートに行くとサハナと決闘し熱い別離があったり。
そしてスイリンルートでありながらもサハナとの別離で印象深いCGが出たり。
などなど、お国事情が絡むとどうしてもサハナ贔屓になってスイリンはフェードアウトしかけるんですよ。
そういう部分の差を感じると、自分は作者や物語の都合で贔屓されるキャラよりも、贔屓されないキャラに肩入れしてしまい。
そういう傾向からスイリン寄りになったりもしました。


四つ目は単に自分が運命論者な所です。
サハナと主人公は同じ階級、同じコミュニティの中での出会いなので、政略結婚の流れからお互いに家の境遇を明かし合いそれぞれ自分の生き方を見出し影響を与え合いますがどうしても「絶対にあり得なかった運命」よりも「同じコミュニティのあり得る偶然」というという印象になっていて。
その分スイリンはあの時あの船の事故が無かったら決して絶対に出会う事が無い二人で運命感が強い印象があり。
更にはスイリンに「何も無いゼロの自分が救われている」という立場がとても大きく響いて。
確かにサハナにも救われた部分はありますが、サハナには「救われた」というよりは「影響を受けた」存在という方が大きく、スイリンは完全に何もかも「救われた」存在に感じて、自分の中で「救われ救い返す」という構造がとても大好きなので、「スイリンに救われ、本当に孤独なスイリンを救う唯一の存在の主人公」みたいなものとして見ており、超個人的な好みとしてスイリン派でした。


まぁ、スイリンはスイリンでサハナよりも我が無く、どこまでも自分を出さない善人なので、ある意味で「お人形さんみたいなヒロイン」に見えて、「サハナの自我が強い方が好き、自分を強く貫くようなヒロインが好き」という方も居そうだなーとは思いました。
どちらのヒロインも良さ、そして悪さも兼ね備えたヒロインで良い感じにダブルヒロイン物としてバランスが取れていたと思います。
個人的にもう少しサハナに人間らしい邪な所があり、性格の悪さが見えていたらサハナにも傾いたのですが…何分自分の好みの「性格の悪いヒロイン」枠には入り切らず、「性格のキツイ良い子」止まりだった所が惜しいです。


国として全体を見ると「日ノ和」、正直主人公達の属する倉敷家、天久佐家がガッチガチの保守派で他国と連携を取らないといけない時に自国の権威ばかり見て周りを見ずダメダメである事が分かったり、逆に蘇芳家が革命派で時代的な物を見るならある意味で正解の思想を持っているので、サハナルートで革命派になった主人公が国を変えるのが正解だったり、スイリンルートで蘇芳家に任せるのが正解という、「時代の変わり目」が強く描かれていたと思います。
蘇芳家の当主、関西弁だし飄々としているし、この人の見た目、絶対糸目だろ…と思いながら読んでいました。
ハルヨシの事を考えてもスイリンルートでは生き残りますし、その後ハルヨシは蘇芳家と思想的に組みそうな気がしますし…倉敷家、天久佐家は崩壊するとは思いますが、スイリンルートの革命の方が全体で見ても好みだなと思いました。
まぁ、倉敷家は崩壊するので、主人公からすれば死ぬまで使えて主人公に家を託した母には面目が立たないのと、天久佐家のサハナの父のジンと兄のリハクは極刑になりかねませんが…本編を見てサハナに行った事やあまりにも全てを切り捨てようとする性格を知ってると、彼らの「家を守らねば」という気持ちがあったのは分かりつつも特に庇護したいと思わないので、まぁ、という気持ち。
これもまたスイリンの父のラオが善人過ぎましたね…


国、権力、お家柄、そういうしがらみが土台にありながらその歴史の波の中で巻き込まれた青年と少女達の三角関係物で、女性陣にドロドロした部分は無い代わりに立場や権威が渦巻ドロドロしているという面白い三角関係物でした。
序盤の「章編」の凪のような恋から「時代編」の嵐のような恋への移り変わりの流れ、構成、演出が大変良く、三角関係に胃を傷ませながらも最後まで終わる事が出来。
どちらのEDも選んだ先、切り捨てた物と守り抜いた物はありながらも納得の出来る終わりでとても良かったです。