ひっそりと群生

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【はこにわのみこ】感想

【女性主人公全年齢】



2021年07月09日配信
水温25℃』様 ※リンク先公式HP
はこにわのみこ】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








あくまとかみさま
ひどいのどっち?



『「今日もすてきな1日でした」

 小さなへやにすむ、小さな女の子・アニー。
 何もない へいわな日々ですが、
 だからこそ 小さな「へんか」が楽しくて
 今日も何か かわったことがないか
 おへやを ぬけ出して、かくにんしに行きます。

 そんなある日、アニーは あくまと出会いました。
 新しい おともだちができて、
 いつもより もっと楽しい日々のはじまりです。』
(公式より引用)


プレイ時間は約20分くらい。
分岐無し。


リベリオン・ヒーローズ
』(※リンク先感想)を制作された水温25℃さんの作品。
アニーという少女とクロという悪魔が小さな部屋の中で交流し、アニーが1日の日記を付けていくという物語。
1日は1、2分で終わり、サクサクと話を読む事が出来ます。
アニーの日記で1日が綴られて行きますが、履歴を見るとアニーとクロの会話が見る事が出来、日記だけでは分からない情報を知る事が出来たり。
一周が終わるととあるオマケが追加されアニーの境遇の真相やこの世界の事を深く知る事が出来たり。
絵本のように可愛らしく紡がれていく物語の中で悪魔と人間との確執や人間の愚かさや醜さが垣間見え、可愛いだけでは終わらないしっかりと地に足が着いた作品として仕上がっていました。



『システム、演出』
ティラノ製。
今作もカスタマイズは完璧で流石でございました。
リベリオン・ヒーローズ」でもですが痒い所に手が届くカスタマイズはティラノのカスタマイズの中では最高峰だと思います。
基本のシステムを全く流用しておらず、全ての作りでオリジナリティが発揮されていました。
本編の文章はアニーの日記のみですが履歴を開くと会話を知る事が出来るなど、細かい所でゲームである事を生かした作りをされていて、一周目は会話を見ずに日記だけ、二周目で会話を含みながら読むというプレイをさせて頂き、一粒で二度美味しく堪能させて頂きました。


『音楽』
ピアノ曲とオルゴールの素材曲。
どの曲も可愛い中に清廉さがあり、「教会」や「御子」という「聖」の部分を引き立てていました。
曲数は少なめですが、世界観にとても合っていました。


『絵』
リベリオン・ヒーローズ」の時もでしたが、水温25℃さんは絵が本当に素晴らしいです。
前回は少年漫画調の絵柄でしたが、本作は絵本調の絵柄で。
ほぼ動きありのアニメーションで驚きました。
小さなキャラ達がチマチマと生活する姿は見ていてほのぼのします。
可愛らしい動きをするキャラクター達ですが、所々の会話で不穏な要素もあったり、見た目と世界観の根底にあるハードさのギャップが良かったです。


『物語』
アニーが可愛く日記を書きます。
本当にそういうお話なのですが、彼女の生活がタイトル通り「はこにわ」で限られた生活をしていて、彼女にはあまり自由が無い事を作中の状況から知る事になります。
日記もまた後半から自由とは言い難い物になり、アニーが何度か日記を書き直す姿描写されますが、日数が進んで行く中で更に不自由になって行く姿を見てとても切ない気持ちになりました。
ほのぼのとした見た目とは裏腹に進むにつれアニーの自由に思いを馳せて行くのですが、作品の雰囲気に似合うラストでとても安心しました。


『好みのポイント』
クロの考え方がとても好きです。
「あぁ、悪魔ってそういうものかもなぁ」と思います。
クロは気まぐれだったのかもですが、アニーとクロが出会い、あのエンディングを迎えられた事が運命でその運命を神が作ったのだとしたら、その事にだけは心から神に感謝します。





以下ネタバレ含めての感想です





水温25℃さんの男女カプは良いぞ!!!
リベリオン・ヒーローズ」も男女二人の関係が最高だったのですが、今作もアニーとクロの関係が最高でした。
200歳の悪魔の青年(?)と8歳の少女…年の差過ぎてビックリ、でも、その差がたまりません!
好奇心だけで少女に接する青年と、閉じ込められ自由の少ない少女。
今回はカプというよりもコンビですが、二人の交流が男女カプ、男女コンビ好きの心に染み渡りました。


おそらく今作の世界設定は、とある日照りが続いた村にアニーが捨てられており、アニーが拾われた時に雨が降り出した。
その後も様々な益が村にもたらされアニーは「神の御子」として崇められる。
その事を知った教会はアニーを保護、教会でアニーを育て始めるが、アニーの元気が無くなって行く。
人間は必ず聖の力か魔の力のどちらかに偏るが、実はアニーは魔の方の力を持った子だったので教会は彼女にとって居心地は良く無かった。
アニーはシスターに世話をされながら外れの小さな部屋で過ごすようになる。
そして、クロと出会い本編スタート。
…という事で良いのでしょうか?
多分こういう流れだと思います。


クロは単純に好奇心だけで人間界に降り立ち、アニーと出会い、アニーに興味を持ち彼女の友達になります。
作中の情報からプレイヤーも察するのですが、「アニーは別に神の御子でも何でも無く、単に偶然が重なり益が訪れただけで、教会側が「御子」という存在を欲しがりアニーに「御子」を押し付けた」という事実が浮き彫りになります。
そういう信仰し過ぎるが故に一人の少女の自由を奪うというのがまさに「人間」をしていて。
柔らかい作風だけではなく、下地に人間の信仰から来る傲慢さや身勝手さがあり、そういう邪悪さが好きなので読んでいて悪い顔でニヤけて行きました。
クロはアニーとは別にシスターにも会っているらしく、「アニーは「御子」では無いだろう」と言っている描写があり、そういう信仰から来る歪みをシスターに問いかけているようですが…アニーを解放はせず、都合の良い形で受け取る所がまた業を感じて好きでした。


アニーは「御子」の扱いを受けては居ますが自分の意思はハッキリと持っている子で、クロとの交流や外への好奇心で「決めるのは周りじゃない」と抜け出す強さを持った子だったのがとても良かったです。
アニーがこれだけ強い意思を持っているのに、教会側は「アニーが来た日に雨が降ったから」を頑なに信じて一人の少女を閉じ込める歪んだ信仰を捨てきれない所がアニーとの違いを更に際立たせていました。
今までもアニーに対して興味を持ってはいましたが、更に興味を持ったクロがアニーの手助けをしてくれるのが本当に好きで好きで。
「悪魔は別に人間の悪意に興味は無く、人間が望むから手を貸すだけ」という姿が悪魔っぽいというか。
「アニーが自ら望んだから助ける」というのがどこまでも悪魔をしていて好きでした。
エンディングでアニーが眠っている姿を見て「死んじゃった!!?」みたいに焦るクロも可愛かったです。
興味を持った事に軽く首を突っ込み見ているくらいでやる気なさげに悪魔をやっているように見えますが、「強い意思を持った少女」に対しては肩寄せしてるんだなーと。
「空を飛びたい」というアニーの願いを叶えてあげたり、アニーに対しての行動が優しくて本当に好きでした。


「神話において人間を最も殺したのは悪魔では無く神である」神話などの統計からそういう言葉を聞いた事がありますが、本作も「悪魔よりも神や神を信じ過ぎた人間の方が厄介」というのを感じ、そういう皮肉がとても好きなので世界観がジワジワ明かされる度に面白く邪悪な笑みが漏れました。
それでも邪悪さだけに染まらず、アニーが部屋を抜け出してハッピーエンドになった所に作品の雰囲気を崩さない作り方の上手さ、手腕を感じます。
「はこにわ」である小部屋から出て行った先のエンディングでアニーとクロが200年…は無理だと思いますが、アニーの寿命が許す限り二人仲良く信仰とは無縁の平和な土地で暮らして欲しいです。
可愛く柔らかい作風でありながらも悪魔と神と人間について色々と思いを馳せ、アニーとクロの男女コンビの動きや会話にほのぼの出来、二人を笑顔で見送れる素晴らしい一作でした。