ひっそりと群生

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【非実在都市伝説の作法 Imaginary Fakelore】感想

【女性主人公全年齢】



2021年08月16日配信
『Plastic Tekkamaki』様
非実在都市伝説の作法 Imaginary Fakelore】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








仕事の作法、取材の作法、アングラの作法、人間関係の作法。



『オカルト雑誌の新人記者とその上司が、都内近郊に発生した「増殖する路地裏」の噂を取材する話。
 選択肢なし。Lofi Hip Hop付きのお仕事バディもの風デジタルノベルです。』
(公式より引用)



プレイ時間は約2時間くらい。
分岐無し。


深夜徘徊のための音楽 beats to relax/stray to』(※リンク先感想)を制作されたPlastic Tekkamakiさんの作品。


東京都裏手区、古近衛という場所にある出版社「株式会社ノウティカ」。
そこに就職して半年の楓井瑛は特に記事を任される事無く雑用をさせられていた。
文句は無いがやりがいもなく過ごす日々。
非喫煙者だったが景色が好きで屋上の喫煙スペースを安らぎの場にしていた瑛はある日、タバコを吸うオカルトサブカル雑誌「ノウティカ」部門の桜坂マエと出会う。
マエに気に入られた(?)瑛は「ノウティカ」部門に引き入れられ、コロナ禍のリモートワークでパソコン通話でしか話さない副編集長の田村ナギに「七ヶ崎サイトウ」というPNを貰い、マエと共に雑誌「ノウティカ」の記事にする為に都内近郊に発生した「増殖する路地裏」の噂を取材する事になった。


架空の東京の都市伝説取材をする二人の女性記者のお話。
「路地裏」から発せられるどこか濁ったような独特な空気。
そこに惹き付けられやって来る数々の人々。
何故同じような構図の裏路地が増殖するのか。
路地裏では何が行われているのか。
暗く湿り気がある路地裏で、「オカルト雑誌と」いう決して日照りが良いとは言い難いジャンルの記者の二人が気怠げに記事を追い求める。
アングラ×アングラで巻き起こる独特な空気の化学反応がクセになる作風でした。



『システム、演出』
ティラノ製。
オートモード以外の基本性能は有り。
選択肢の無い一本道なのでさほど困りませんでした。
瑛、マエ、時にナギと視点が変わるのですが、視点キャラはメッセージウィンドウの左にキャラが表示される為、読んでいて視点がコロコロ入れ替わっても分かりやすかったです。


『音楽』
「深夜徘徊のための音楽」同様、オリジナルのLofi Hip Hopで彩られた世界は必見必聴。
前作プレイ時にLofi Hip Hopを調べましたが「“ヨレた”ドラムで構成されたヒップホップ」の音が今作でも路地裏という場所と瑛とマエの独特な関係性にとてもマッチしていました。
どこか気怠げで、どこか不安定で。
路地裏、オカルト雑誌、明るくは無い登場人物達。
そういう灰色の世界観にとても合った音楽でした。
マエが運転する際に聞いている色んな雑音を組み合わせたSEもまた不安を駆り立てられ、世界観に合うという良い意味で落ち着かない音が多かったです。


『絵』
解像度を低くした写真背景と、弱ドットのように描かれた登場人物の立ち絵が「あまり触れてはいけない世界」の解像度を逆に上げており、アングラの空気をよりいっそ濃くしていました。
瑛、マエ、登場する路地裏の人々。
路地裏の人々がマスクを付けている所に秘匿性もですが2021年の風潮を感じ、キャラクター達が今を生きているのを感じさせました。
瑛とマエの洋服に差分がある所もオシャレで良かったです。


『物語』
二人の女性が取材をするあらすじにある通り女性記者のバディ物になります。
路地裏では様々な事が起こりますが、瑛とマエの仕事は「「増殖する路地裏」の噂の取材」であり、それ以上に関与する事があまり無かった所が「お仕事」の割り切りを感じ、ドライさやクールさがありました。
だからこそ、そんな二人が最後に起こすアクションが印象的でした。


『好みのポイント』
瑛とマエの距離感がとても好きです。
「お仕事バディもの」の通り、仕事上での関係で特に深い関係になる事は無く。
会話も「ここからここまでは聞くけど、これ以上は聞かない」というのを二人がそれぞれでわきまえていて、「仕事上の距離感」という物が上手く描かれていました。
そういう距離感だからこそ発生する馴れ合いではない空気が心地良く。
瑛はコミュ強、マエはクールとそれぞれで方向性の違う性格をしていますが、それぞれが他人への境界線をしっかりと持っている為、とても社会人をしていてサッパリした関係でとても好きでした。





以下ネタバレ含めての感想です





瑛はPNにした「七ヶ崎」という昔の友人と何かがあった事、マエも結婚はしているけれどそれ関係で何かがあった事。
ナギにもおそらく過去に取材の関係で何かがあった事。
彼女達には濃い過去があると思われるのですが、そういう事が本作で深く語られる事は一切ありません。
彼女たちが会話を繋げる為にボソッと語る一言でしかそういう部分が見えませんし、聞いている側もその事を「どうしたの?」「何があったの?」と深堀りして聞く事が無く。
とても個人主義で、そういう所がまたライター業の私生活らしく。
仕事で色々と人に聞くから私生活では会話はアッサリ済ませる、そんな所が現実的だなと感じました。
そしてそういう「語られない」所から逆に彼女達のバックボーンを察する事も出来。
「深夜徘徊のための音楽」でもでしたが、Plastic Tekkamakiさんは「ゲーム中では登場人物の人生のほんの少ししか描かれないのに"いつもの登場人物達の生活"を何となく感じ取れる」という描写がとても上手い方で、今作でも「ゲーム中では語られないけれども登場人物達の語らない部分を何となく察せられる」という描写が非常に巧みでした。


上記でも書きましたがそういう軽く、一言で言えば表面上だけで紡がれる関係の空気感が「お仕事もの」としてとても好みで。
「路地裏」で行われる事はネットリしていましたが、人間関係はサラリとしていた為、暗く重い背景を感じながらも心が重くならずに読み進める事が出来ました。
そんな風に「お仕事」として進みながらも瑛にもマエにも譲れない仁義という物があり。
後半、ワゴンに仕掛けるシーンは前半の「お仕事」としての割り切りをしていた二人とは別人のように熱血で見ていて笑ってしまいました。
あぁ、なんだかんだ「記者」をしているんだなーと。
瑛もマエも、クールさや冷静さが性格の大部分を締めますが、瑛はおそらく友人との過去で、マエはおそらく記者としてのプライドから心の根底には「割り切れない矜持」という物があり、それを基準に生きている辺りに二人の「良い人」っぷりが見えて。
冷静と情熱のあいだのような、人間は一辺倒では無い、そういう人間らしさが随所から感じ取れて楽しかったです。


オカルトとして取材した「路地裏」で巻き起こるのはお金の関係や薬の関係や売春など、全くオカルトをしておらずあったのはどこまでもアングラな世界で。
話の流れとしては全く「オカルトホラー」は起こらず、「路地裏ホラー物?」として読み進めていたので思っていたジャンルとは全く違い驚いたのですが、「怖いのは生きている人間の方」のような展開は好きなので、後半の人間の悪が凝縮されたような流れは好きでした。
そんな現状に現代若者のようにコミュ強いでドライな瑛とクールで表情の少なめなマエの冷静に見えて実は根っこは情熱的なコンビが一発喝を入れる。
コロナの現状やワクチンの件なども相まって現代らしい流れを組み込んだ完全に善とは言えないけれども独特な空気の今時の勧善懲悪物になっていて。
瑛とマエの二人の会話と行動の面白さが流れる雰囲気や音楽で上手く彩られていました。