ひっそりと群生

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【暗がりビオトープ】感想

【全年齢】



2021年08月26日配信
『深山宵』様
暗がりビオトープ】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








離れていても、そこに"家族"は居た。



『かつてそこは、薄暗くて居心地のいい場所だった。

 199X年。父親に連れていかれたのがきっかけで
 ゲームセンターに通うようになったユーキ。

 はじめて知ったゲームの楽しさ。
 そこで働く人々や客たちとの出会い。

 たくましく成長していくユーキだったが……。

 ほんのりビターな短編ドラマです。』
(公式より引用)



プレイ時間は約40分くらい。
分岐無し。


酒とギャンブルに溺れる父の元から母が去った。
ネグレクトを受けていた小学生のユーキは父親に保育所代わりにゲームセンターに置いて行かれる。
ユーキは父の近くよりも、家よりもゲームセンターに心地よい居心地を覚えて…
その日から始まるユーキのゲームセンター通い。
年齢もありゲームセンターでままならない事や金銭面で上手く楽しめない所もありながらも、それでもゲームセンターを居場所とし、ずっと居続けるユーキに周りの人間もユーキの存在をゲームセンター内の当たり前のものとして受け入れていく。
ネットの発達していない90年代の独特の空気に包まれながら一人の子供を中心に繰り広げられる、ゲームセンターという小さな世界での普通とは違う別の形態を持った"家族"の物語。



『システム、演出』
ティラノ製。
基本性能有り。
TIPS機能が有り、ゲームセンター関係の用語や90年代当時のゲームセンターの情勢を細やかに知る事が出来ました。


『音楽』
ちょっと薄暗く小さめの空間の中、煙草の煙がくゆり、場を包み込むような。
ちょっとしたアングラな空間に合う曲ばかりで、選曲がとても合っていました。
「ボーン」と低く耳に残るような曲が多く、ゲームセンター空気感だけでなくユーキの境遇もあり、どこかダウナーな曲調が良かったです。


『絵』
背景と影絵で進行。
背景はオリジナル。
ゲームセンター内を中心に主人公、ユーキの影絵がチョコチョコと動いたり。
所定の位置にいつも居る人が居たり。
背景からもゲームセンターがしっかりと作品の軸になっていました。
EDロールでも機体の中にスタッフロールが流れたり、「ゲームセンターのゲーム」というのがとても大事に描かれていました。


『物語』
「ゲームセンター」というちょっとアングラでミステリアスな場所で一人の子供が居場所を見つけていく物語。
主人公のユーキが親があまりにもな親だった為、達観しており、そして勉強は出来ない方でもどこか純粋で聡明で。
ゲームセンター内の人々の心をその境遇と純粋さと聡明さで掴みながらゲームセンターを居場所にして行きます。
店長と仲良くなったり、店員と仲良くなったり、でも、仲良くなり過ぎて踏み込み過ぎて疎遠になってしまったり。
ユーキの青春時代の殆どがゲームセンターを中心に進んで行き、そして大人になりまた再びゲームセンターに戻って来る。
大人になったユーキが見つけた道の中に「ゲームセンター」がしっかりと息づいており、「人生の中でゲームセンターでの時間は一瞬だけれど、その一瞬が人生を変える」というのが描かれていて、一人の人間の成長物語、人生録として楽しむ事が出来ました。


『好みのポイント』
作中であまり明るい話題ではない状況が出てきますが、最後、「あとがき」を読むとどこか希望があって良かったです。
店長のヒジリサワさん、店員のサクラバさん、サクラバさんの彼女のミホさん、そしてユーキ。
形ある物はいつかは無くなり、ゲームセンターを閉店を迎えますが、再び彼らがゲームセンターで出会えて、ユーキが大人になった事で今度はゲームセンターの「外」で出会える可能性を秘めている為、彼らの関係が終わりを迎えた訳ではない所に希望を感じました。
離れていても彼らの中には「ゲームセンター」があり、そこが彼らの「ホーム」で「家」で「家族」だったと、そう信じています。





以下ネタバレ含めての感想です





別の形態を持った「家族もの」、「疑似家族」が大好きなので凄く心に染み渡った作品でした。
ユーキの父も母も酷い親で間違いは無いのですが、酷い親だったからこそゲームセンターでの出会いがあったと思うので、不幸中の幸いというか、災い転じて福となすというか、そういう運命的な物を感じます。


作中では店員のサクラバさんとの関係の変化や交流や顕著で、近くなって、兄妹のようになって、近くなり過ぎたから踏み込み過ぎて。
そこで相手の逆鱗に触れて拗れる…という流れが凄くリアルというか。
遠かったらミホさんとの関係にはここまでユーキは口出ししなかったんだろうな…というのを感じて、そういう部分からも関係の変化を感じ、細かい変化が好きでした。
ユーキが勉強に意味を見出したように、サクラバも歌を再び目指す道に進んだり。
ラストは海外で成功しているのが歌なのかそれとも他の何かなのか分かりませんが「成功している」という部分で希望を持てる終わり方なのと、「あとがき」から「後ろにミホさんが居るかも」という部分で更に希望が持てて。
どこまでも皆が良い感じに終われる所に読了感の良さを感じました。


店長のヒジリサワさんも、古いパズルゲームが得意な店長に見えて、地元で幅を効かせている人で、ユーキの父親を社会復帰させたりと、一番ユーキの家庭を良い方向に持ち上げてた人なんですよね…
あんまり登場しませんが「あとがき」で言われるように影のMVPだと思います。
彼が居なかったらユーキはきっと家庭内で勉強する事もままならなかったと思うので。
ゲームセンターは閉店しますが、月イチくらいでユーキと飲んだりして欲しいです。


あとは主人公のユーキの達観と聡明さと純粋さが好きでした。
家庭環境故、達観と聡明にはならざるを得ない子だったのですが、それでも根は凄く純粋で。
途中の高額な忘れ金をどうするか…のシーンでドキドキしつつも、ちゃんとサクラバに渡した所で「あぁ、この子は良い子だ…」と思えた所が良かったです。
サクラバさんもそれまでは「微妙なガキ」くらいの距離感だったのが、あの場面で「コイツは良い子(良い奴)だ」に変わった気がします。
そういう純粋な部分がゲームセンターの大人の心を掴み、そして聡明さで「この子は大変なんだな」と思わせたと思っているので、ユーキの複雑な家庭環境はユーキを不幸にもしましたが、同時にユーキを守る盾にもなったのだろうなと。
最後、ちゃんとサクラバさんに言われた通り「何かをしなければならない」「勉強をしなければ始まらない」とゲームセンターから離れ「学生」に戻った所もユーキの聡明さが出ていて好きでした。
それでも、ちゃんとゲームセンターはユーキの生きる道の一つになっていて。
最後、ゲームセンターに関わる仕事に付き、ちゃんとした社会人になりゲームセンターに戻って来た時には込み上げてくる物がありました。
店長もサクラバさんも、きっと嬉しかっただろうなぁ…
ラストは本当に「家族との再会」のような気持ちになりました。


「ちょっと影のある場所だけど、誰かにとっては居場所になっている」そんな空間として「ゲームセンター」がしっかりと効いていた作品でした。
作者様がゲームセンター関係で働いた事があるのかもしれない…と思えるほど、TIPSでゲームセンター用語を知れたのも斬新でした。
自分はゲームセンターには疎い為、知らない用語や世界を知る事が出来ました。
治安が良いとは言い難い、でも、誰かの救いになっている、そんな場所はこの世界のどこにでも存在している。
そんな場所で築かれる人間関係と「疑似家族」の関係が90年代の空気感と共に煙草の煙に包まれながら薄暗く、そしてほんのり温かく見える。
心地良い距離感と優しさに溢れた作品でした。