ひっそりと群生

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【紙一重の想い人】感想

【男性主人公全年齢】



2021年11月15日配信
猫と心中』様 ※リンク先公式HP
紙一重の想い人】(PC) ※リンク先ふりーむ!
以下感想です。








善性と誠実と人の業のお話。



『退魔を生業とする家系で生まれ育った高校生・久留 惺。
 自身も父親から除霊や悪霊退治の手解きを受けて育ったものの、今どき霊や妖怪といった“非科学的”なものを信じる人間はほとんどおらず、前時代的な古臭い仕事だと、鍛錬や修行にもあまり気が乗らずにいた。

 そんな中、バイト先で同僚として新たに加わった大学生・百合永 嵐に惺は何とも言えない違和感を覚える。

 (何か、憑いてる気がする……)

 憑かれやすいタイプだという嵐は、偶然にも姉・律花の彼氏だった。
 地元を離れている律花にも嵐のことを頼まれた惺は、退魔師の端くれとして嵐を見守ることになる。』
(公式より引用)



プレイ時間は約25分くらい。
分岐無し。


退魔師の少年がとても朗らかで優しい同僚の百合永と出会い「彼の力になりたい」と強く思うお話。
それまでは退魔の技術や力なんて現代では何一つ役に立たないと適当に表面だけ学んでいた主人公が、「助けたい人がいる」「力があれば出来る事があるのかもしれない」となった時、本気で退魔の力に向き合い、百合永を助けたいとする姿に胸を打たれ、そして明らかになる真相に胸を締め付けられました。
どこまでも優しい善人とどこまでも真っ直ぐな誠実と、そしてほんの少しの傲慢さが魅力的な和風退魔物でした。



『システム、演出』
Light.vn製。
基本性能は全部有り。
退魔の術を使うシーンでの術式のアニメーション演出がきらびやかで綺麗でした。


『音楽』
世界観に合った和風系の曲が多かったです。
所々で入る鈴の音や雑音などが「現代の和」を絶妙に表していました。


『絵』
背景のズームインなどが上手く、人物の表情が見ていてグッと来ました。
優しげに笑ったり、やるせなく笑ったり。
どうしようもない状況に顔を歪ませたり、顔を伏せ表情を隠し嗚咽を漏らしたり。
そういう感情の出し方が上手かったです。


『物語』
序盤はとてもほのぼのと進み、百合永の善性に惹かれて行く主人公の感情の動きが手に取るように分かり、穏やかな気持ちでした。
しかし、後半から徐々に重苦しい空気が漂い、真相が開示される事で「どうしようもなさ」が溢れ。
それでも、善を貫く百合永の優しさが辛くも暖かかったです。


『好みのポイント』
空気感もとても良く、上記の音で感じる「現代の和」と絵でも感じる「少しだけ栄えている田舎の空気」、そして退魔という要素が上手く絡まり、どこか懐かしい気持ちになりました。
諸行無常、有為転変、決して時は戻らない。
時間は過ぎる、この空気もまた過ぎ去って行く。
夏の一時、赤色に染まった夕方のお彼岸のような、そんな空気を纏ったお話でした。





以下ネタバレ含めての感想です





百合永はビックリするくらいの善人で、主人公の惺は退魔師のやる気は無いけど「助けたい」と思った人の為に全力で向き合える誠人であったのに対し、惺の姉の律花があんまりにも…あんまりにもあんまり過ぎました。
退魔の家系に生まれて「悪い物の驚異」も学んでいる、主人公よりも退魔の事を勉強しているのに、「夏の祭り、人混みから離れた魔が集う危険な場所に魔を惹き付けやすい百合永を連れて行く」とはどういう事ですか!!?
退魔のプロでは無いとはいえ、少し人と違う事を知っている家系として注意不足過ぎというか、「夏祭りに人の居ない場所に行きたい」という欲だけで憑かれやすい百合永を連れて行って死なせるという行為があまりにも浅慮過ぎます。
いや、だって、百合永が憑かれやすい理由っておそらく「あまりにも善人だから」だと思うんですよ。
で、退魔師と魔もまたタイトル通り「紙一重」だと思っていて。
そういう部分に律花もまた惹かれたのだから、ちゃんと百合永の特異性を理解してないと退魔師としてダメでしょう…と。
その上で責任を負わず百合永の人権を無視するかのように外法を使っていて…百合永を死なせてしまった発端から本編の行動まで何もかも庇護出来なくてちょっと引きます、というかぶっちゃけ「嫌な子だなぁ」と思いました。
これがまだ死なせた理由が「一緒にただ歩いている時に魔に襲われて」とかなら庇護出来るのですが、浅慮過ぎた行動の結果な上、更にその後の行動も浅慮なので…うん、あんまりですよ…


正直作中のヘイト、負の感情の多くが律花に向かうので確かに百合永の彼女は律花ですが、男女カプが好きな自分ですら心の琴線に引っかからないカプという珍しいカプになりました。
むしろ、主人公の惺が一生懸命「百合永さんを助けたい!」と全力で行動する為、関係性としては主人公と百合永の関係性の方が好きなんですよね…
「魔を引き寄せやすい」という特性で主人公が百合永に惹かれている部分も確かにあるとは思いますが、主人公が性別とかでは無く、百合永の善性に惹かれて行く過程が丁寧で、主人公の「助けたい」という気持ちに強くシンクロしました。
BLとはまた違った同性間での好意というか、善なる者に対しての憧憬というか、そういう「人に惹かれる」という描写がとても上手かったです。


そして話の中心の百合永が本当に善人で優しく気高く。
見てて「これは確かに魔も退魔師も惹かれるな…」と納得出来るような、まさに聖人君子。
どんな時にも笑顔を忘れず、人の優しさを受け入れ、自分の命を弄ぶような行為を行った人間ですら許し、そんな相手すらも心配する。
「美人薄命ならぬ聖人薄命」「良い人ほど先に死んでいく」そんな言葉を体現したような人物でした。
本当に…惜しい人が世界から失われたと思います。
この業は律花にしっかりと背負って欲しいと個人的には思いますが…そんな業すらも百合永本人は許すのでしょうね。
どこまでも、どこまでも真っ白で暖かで、だからこそ決して戻らない彼の命を想うと最後が切なかったです。


夏の日のお彼岸の一日、たった一日だけ、会いたい人に会えるような、そんな心地よい重さの暑い空気に肺が満たされるような作品でした。
息を大きく吸い込むと、死者の香りがする。
霊感が全く無い自分でもどこかふと、人の世とは違う存在を感じ取れるような、そんな空気がとても心地良かったです。