ひっそりと群生

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【フサの大正女中ぐらし】感想

【乙女全年齢】



2021年12月27日配信
日々雲隠れ』様 ※リンク先公式HP
フサの大正女中ぐらし】(PC) ※リンク先ふりーむ!
以下感想です。








綿密な時代考証の上で描かれる、喜劇で、悲劇で、でも平凡な一人の女中物語。



『大正六年・秋。
 十五歳のあたしは、東京で女中奉公をしていた。
 十歳の坊っちゃんに振り回されたり、奥様に洋食の作り方を教わったり、毎日がじたばたどたばた。
 あの頃のありふれた、不幸せと幸せ。』
(公式より引用)



プレイ時間は約50分くらい。
分岐有り、EDは2つ。


鼓草』(※リンク先感想)を制作された日々雲隠れさんの作品。


「鼓草」がそれはもう上級の戦時中乙女ゲーだったので期待を大にしてプレイしましたが、期待を裏切らないどころか期待の上を行く作品でございました。
参考文献があった上でしっかりと描かれる衣食住の文化。
所々から垣間見える今では考えられない貧困層と女性の人権の無さと女中の地位の低さ。
現代ほどの自由は絶対に無い中で、その中ででも楽しさを見出し、時代の中の当たり前を享受する女性の慎ましさと逞しさ。
そして辿り着く一つの幸福な結末。


決して揺るがない「大正」という時代の地盤を強く固めた上で、乙女ゲーらしいロマンスもしっかりと忘れない。
時代、展開、キャラクター、イラスト、音楽、全てが一つに纏まり、隙の無い素晴らしい一作でした。



『システム、演出』
Light.vn製。
未読と既読のスキップも実装され、プレイが非常に快適でした。
エンディング分岐箇所もラストの選択肢のみで分かりやすく、更にどちらがGOODかも分かりやすいという親切設計。
キャラクターの立ち絵の動きも細やかで、コミカルなシーンではワタワタと動くキャラクター達が見ていて飽きなかったです。


『音楽』
どの曲も「和」をとても感じる素晴らしい曲ばかり。
ピアノ曲が多く、「洋」になりそうですが、上手い具合に「和洋折衷」の空気になっていて洋の文化が入って来て生活の基盤になり始めた「大正」らしさがとてもありました。
曲の雰囲気で言うならジ◯リの和洋入り混じった時代物のような雰囲気の曲が多く、聞いていてどこか懐かしさを感じる曲が多かったです。
コミカルな時に流れる曲もまた若干ジャズっぽさがありそこもまたシーンと作風に合っていました。
音楽鑑賞モードも備わっており嬉しく。
タイトル画面曲の「春の箱舟」は古き良き日本の風景を感じます。


『絵』
「鼓草」と同じ方が担当。
現代の流行りに囚われず、素朴で作中の時代に非常に合致した絵柄でとても素晴らしいです。
立ち絵も豊富で、攻略対象キャラである壇のイタズラ坊主っぽさと怪我をして帰って来た時の顔の傷の差分の多さに笑いました。
毎回違う傷跡がイタズラ坊主のキャラをとても引き立てていました。
途中の主人公、フサのとある悲惨なシーンでの立ち絵も表情から驚愕や絶望などが感じ取れて嫌なシーンですが表情がとても良く。
一枚絵は一つのみですが、壇と女中では無く一人の少女として一緒に祭りを楽しむ笑顔がフサの年相応さを表していて印象深いほどに良い笑顔でした。


『物語』
文章は読みやすく。
フサや壇が洋食にお熱だったり、キャラクターが洋食に抱いている感情そのものが西洋がようやく日本に浸透して来たという事が伝わり上手い描写だなぁと感嘆させられました。
キャラクターの珍しい物に対する感情と洋食を絡める事で絵としては食べ物は一切登場しないのに洋食文化が美味しそうに感じました。
クリア後に絶対にライスカレー(カレーライス)を食べたくなる事間違い無しです!
所々で出てくる「女中の心得」もまた当時の女中のあり方を知る為には重要で。
一見雇われの身で人間として扱われているようには書かれていても、よく読み解くと全く現代での人権などは無く。
「なにをされても泣き寝入りをしろ」というのがありありと感じ。
そしてフサの立場は勿論の事ですが、女中先の奥様である千代子の立場や振る舞いからも雇い主でありながらもどこか諦めが混じった生き方をしていて、当時の女性の地位の低さを嫌味無く時代物として「当たり前のもの」として描かれている所に巧みさを感じました。
「鼓草」でもでしたが、この辺りの描き方の上手さは流石過ぎて惚れ惚れします。
EDクレジットで表記される参考文献の多さには圧倒されました、流石でございます。


『好みのポイント』
下地は「時代物」として強く組み上がっていますが、物語の大筋はしっかりとロマンチックな乙女ゲーとして作られており、「時代物」と「乙女ゲー」を絡ませたら本当に素晴らしい作品を描かれるサークル様だと感じました。
とにかく唯一の攻略キャラである壇が本当に本当に「イイ男」で。
序盤は生意気な少年くらいの印象でフサと同じく弟のように見ていましたが、話が進むにつれて本当は思慮深く自分に出来る事を常に探している少年だという事が分かり。
攻略対象キャラクターが一人の固定カプゲーが個人的に大好きなのでその点でもとても好みに刺さりましたが、対象キャラである壇がプレイすればするほど「生意気な少年」から「フサの事を誰よりも一番に思っている男」というのが伝わり、その印象の変化にやられて行きました。
最終的には家から離れ超自立している所も少年時代の壇を知っていると納得出来、裕福な家から離れても地に足を付けて立っている所に格好良さがありました。
いや、もう本当に、各イベントとラストにはニヤニヤしました!!
フサと壇には末永く幸せになって欲しいです!!





以下ネタバレ含めての感想です





ある意味では王道であり、ネタバレというものは少ない作品ではありますが、とにかくフサと壇の交流と日常が最高で最高で!!
最初から壇はフサにとても好感度が高く、「姉のような存在だけど、その関係で終わらせたくない」という感情がプレイヤーには伝わってきてニッコリ。
フサは壇を「雇われ先の坊っちゃんであり弟のような存在」という視点でしか最初見えてないのもまたこの年上×年下(そして主従)の関係のセオリーではありつつも、プレイヤーから見ると壇のフサへの想いは丸わかりで感じ取れてしまい「少年からの片思い良き!!」と叫びそうになりました。
細かいイベントの中でフサは女中の線を引きながらも、でも雇われ先である意味では孤独なフサは歳が近い壇を大事な家族のように扱い。
どんな時にも壇の気持ちの方を優先して、女中の身で不利益になりそうでも「壇との約束を守る」事を最優先し。
壇も、そんな風にフサは女中だけれど自分との約束を優先してくれたり、母親よりも自分の事を想ってくれているのを感じ惹かれ。
どんどん二人の関係、距離が縮まって行く姿が伝わり。
二人の関係の描き方もですが、合間で挟まる生活の描き方で細やかに細やかに妥協する事無く時代も描かれ。
恋愛物として描き過ぎると立場がブレそうに見えるシーンが出てきそうではありますが、本作はフサの「女中」の身がブレるシーンが一切無かった所に作者様の手腕を感じました。


そんな女中の生活で出てくる注意書きにある「成人から未成年への性加害描写」。
いや、ほんっとうに胸糞で、最悪なのですが、旦那から女中へのそういう事というのは絶対に時代の中で起こっていたと思うので、胸糞にさせられる所にリアルさがありました。
女中の心得も「旦那から手を出されたら声を上げろ、叩け」とかありますが、雇われの身でそんな度胸ある娘などほぼ居らず。
しかも、「手を出されたら泣き寝入り」と同レベルの事が書かれているのもまた胸糞で。
法でも裁けない時代だったんだな…と胸が苦しくなりました。
犯罪行為をして、でも何かあっても女中側に責任が伸し掛かるだけで別に自分は決して痛い目を見る事は無いとか…時代もありますが胸糞の糞。
作中で旦那の立ち絵は出ないのですが、出なくて良かったです。
出てたらスクショして顔を塗り潰しているくらいに腹が立つキャラクターでした。


そういう目に合いそうなフサの状況を見て、幼いながらに察した壇がフサを気遣う姿はもう…最初の悪ガキのような印象がどんどん覆り「壇、成長したら絶対イイ男だ!(というか今でもイイ男だ!!)」と壇の男前っぷりにひたすらに心揺さぶられました
壇と色々あった奥様の千代子も、過去に旦那のそういう面を見ていて、更には壇の兄妹も失っていて。
しかも時代もあって旦那には言い返せないわ離婚もしたらしたで旦那が圧倒的に悪いのに妻が後ろ指指されるような時代だわで…そりゃ心も病むし壊れるし全てに諦めたような態度になるのも仕方ないなと。
最初は冷たい印象がありましたが、千代子の胸中を思うとそういう生き方になるのも納得してしまいました。
それでも最後は自分の家よりも境遇が良いかは別として少なくとも貞操に危険は無い勤め先を紹介してくれる所や壇の好きな雑誌を知っていた所に千代子の最後に残った心を感じ取る事が出来ました。


最後の選択肢で壇に相談しないとBAD、相談するとGOODという分かりやすい分岐も良かったです。
GOODの方はもう…「分かってる」「ですよねー」と予想していた展開ではありますが、だからこそニヤニヤが止まらず!!
「離れた先に手紙を送るから」という約束があった中でスペイン風邪(インフルエンザ)が流行り手紙が途絶え。
フサも女中先が変わり、時代は進み、歳を重ねて。
それでも、「いつか必ず迎えに行く」「フサにコロッケめいっぱい食わせてやる」という約束を忘れておらず、フサと再会する壇。
あーーーっ!!!もうっ!!分かってた!分かってたのに!!!
「幼い日の約束を忘れずに覚えている」そういう年上と年下のカプに弱い自分にはべらぼうに刺さりました!!
フサは年齢もあり「壇は子供心として約束した」という認識で居るけれど、壇の方はマジマジのマジで「フサを絶対に連れ戻す(というか嫁にする)」という熱量の差がね、もうね、たまらんです。
自分は男性キャラが女性キャラに強い熱量も持って熱い(重い)愛を抱えているカプが大好きなので、ラストはもう、もう…
「自分を女中として雇おうとしている」と解釈したフサと「フサを嫁にしようと話しかけていた壇」の差に悶え苦しみました、最高。
壇の父親は案の定の別の女中に未遂でもやらかし、それに切れた壇が父親を殴り勘当されている流れも良き。
壇はどこまでもイイ男で自分の正義を曲げなかったんだなーと。
父親に勝てるほど刃向かえる年齢になったらしっかり立ち向かってるのが好きですし、そんな壇を見て心の荷が下りたようにお金を渡し快く家から送り出している千代子もまた色々と吹っ切れたんだろうなーと思ったり。
千代子ももう壇も居ないし、別に後ろ指指されても良いやと思って別れてそうですし、千代子と壇は壇が勘当されても交流してそうな距離感が好きです。
最後フサに求婚する際も「好きな人や付き合ってる人は居るのか?」からちゃんと入り「もし俺と親父が似ててそれが嫌だったら諦める」という壇、どこまでも男前過ぎでしょ…
もう、本当に、フサ、こんな男を逃したら一生後悔するぞ!!捕まえておけ!!と心から叫びました。


時代、立場が決して作中内でブレる事無く、揺るがない地盤がある中で最高のカプを見せ付けてくれました。
「鼓草」があったので絶対の安心感をもってプレイしましたが、思っていたもの以上のものを頂きました。
「鼓草」とはまた逆でGOODが大団円GOODしていたのも短編としてスッキリしていて好きでした。
(いや、あの、「鼓草」も「鼓草」で最高に面白かったのですが、去年それはもう例の選択肢で凄まじく胃を痛めましたし、各EDで「選択の先の幸福」は確かにありましたが、「大団円」という言葉とはまた違うEDだったと思っているので、長編ではあの濃厚さ好きですが、短編だとこれくらいが良いなって。)
大正に生きる女中の、境遇、生き方、強さ、様々なものを感じ取る事が出来ました。
本当に、とても面白かったです、フサー!壇ー!末永くお幸せに!!と最後に叫びたくなる作品でした。