ひっそりと群生

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【ミラーリングサマー】感想

【男性主人公全年齢】



2020年03月31日配信
『Ryokka WORK』様
ミラーリングサマー】(PC&ブラウザ) ※リンク先ノベルゲームコレクション
以下感想です。








ミラーリング:人間が自分と似た人、または似たものに対して好感を抱きやすい心理。
夏、鏡合わせの男女が惹かれ合う。



『二つの夏。二人の夏―――。

 生き別れた双子の兄を探すために、故郷二示申(ふかみ)町へと下り立った主人公、朋樹。

 記憶に無い町。
 記憶から消えた町。

 そして、町で出会う兄の過去を知る少女たちとの出会い。

 あの日無くしたもの。
 求めてやまなかったもの。

 けん玉の軽快な音と蝉の鳴き声。

 兄を探す中で、朋樹は自らの記憶に秘められた真実に気づいていく―――。

 「人はミラーリング(類似性)を求めている。自分と限りなく同じ人を、好きになるんだ―――」』
(公式より引用)



プレイ時間は約3時間50分くらい。
分岐有り、ED4つ、BAD3つ、TRUE1つ。


主人公、水原朋樹は母が今際の際に発した「なるき」という名前により、自分に双子の兄が居る事を知る。
兄は精神に異常があり、とある場所の施設に閉じ込められていたが既にその施設から自立し一人で暮らしているという話を聞く。
兄を閉じ込めた父に反感を抱きながらも施設があるニ示甲(ふかみ)という場所を聞き出し、兄の手がかりが唯一あるニ示甲(ふかみ)に降り立つ。
そこで出会ったのは自分の事を知っている素振りをする一人の見知らぬ少女や、自分の事を知りながらも何も語らぬ人々――
双子の兄探し、昔自分も居た事があるという町、自分知るという人々との出会い、失われた町での記憶、鏡を見る事が出来ない自分。
全ての謎は失われた記憶の中に。
謎が謎を呼びながらも繋がって行く先は一つ。
双子、鏡合わせ、類似性。
失った過去を取り戻す、人探しミステリー。



『システム、演出』
ティラノ製。
メッセージスピード変更不可。
メッセージスピードを速に出来なかったのは少し不便でした。


『音楽』
素材曲。
牧歌的な選曲が多く、作品に合っていました。
穏やかな曲が多い中で、主人公が過去を思い出してしまったり気付いてしまった時に流れる不穏な曲が異彩を放っていて。
展開もあり、知りたくない過去が向かって来る異質な怖さがあり、選曲が良かったです。


『絵』
立ち絵は素材でキャラに合った絵が選ばれていました。
特に一番最初に出会う破天荒なキャラは表情が多く見ていて飽きない人でした。
背景写真は本当に夏!田舎!という空気が溢れ出ていて、背景だけで暑さを感じ取れたり。
重要な場所になる神社は神聖な空気から恐ろしい空気まで人智を超えた場所らしさの全てが揃っていてとても良い背景でした。


『物語』
人探しと失った記憶を辿るというミステリー要素が大きく、かなり後半まで謎が謎を呼ぶ展開が続きます。
どんどん広がっていく風呂敷に「これは畳み切れるのだろうか?」と不安になりましたが、最後綺麗に回収し尽くし驚きました。
辻褄が合ってる、伏線回収、この辺りが大好きな人にとってはたまらない作品になると思います。
序盤の人々との交流も、主人公を知りながらも何も語らない不穏さは確かにありますが、同時に田舎の人情というのもしっかりと感じる為、主人公の過去に対しての不安はありますが、人から何か危害を加えられるというような不安は全く無いとは言いませんが少な目で。
それよりも神社にある神仏の人の領域ではない存在からの負の干渉があるのでは…?というような恐ろしさを強く感じ、ホラー面もかなり強めでミステリーホラーという作風でした。
序盤に出会うキャラとの掛け合いがかなりテンション高めで若干ギャルゲ調の会話なので一般作を求めている人からは序盤のテンションに置いていかれたり、後半の怒涛の回収のターンが本当に怒涛で一つ一つの真相の開示の情報量が多く頭が混乱しそうになる点が若干の難点かと思いますが、その辺り以外は全て納得がいく話の構成でとても巧みな作りでした。


『好みのポイント』
全ての謎は回収され、綺麗に収束し終りを迎えるのですが、ラスト若干の不穏さがあり、そこがとても好みでした。
ミステリー物などにある「物語は綺麗に完結するけれど、読み手だけが感じ取れる不穏さ、邪悪さ」みたいなEDが本当に大好きなので、今作のラストはとても大好きです!
確かに大団円!では無いのですが、あの真相である以上、あの結末しか無いと思うので、どこかやるせなさや仕方の無さのような物は残りつつも、あのED以上の物は無いと思います。





以下ネタバレ含めての感想です





ミステリー物で使われる&創作者が使いたいような精神系の状況をここぞ!とばかりに詰め込み破綻せずにまとめ上げたのは凄い!の一言。
詰め込み過ぎて胸焼けを起こしそうなほどの設定のオンパレードではありますが、胸焼け以上に「全部詰め込んで整合性って取れるんだ…」という驚きの方が勝りました。
序盤の周りからの言動や会話、接し方など、振り返ると「ああ、なるほど!!」の要素しか無く。
真相と終わりの土台がしっかりと作られた上での「起」と「承」の作りなのを感じます。
鏡、双子、男女、類似性…全てがタイトル通り「ミラーリング」の上にあり、タイトルに違わない「鏡合わせで惹かれ合う物語」でした。


その中でも個人的に上手い!と感じたのは他のキャラクター…夏通や七榎が主人公に隠し事をしながら接する事で主人公は周りに不信感を抱く中、朱鷺子(鷺乃)だけは隠し事をせず、主人公と同じように記憶喪失で主人公の双子の兄を追い求めるという「同じ状況と同じ存在を探す類似性」と「決して隠し事はしないという誠実さ」からプレイヤーを含めて朱鷺子と出会ってから朱鷺子に心を寄せるようになる所。
あの状況では間違いなく朱鷺子を一番に信用するので、「類似性」と「誠実性」によってプレイヤー心理をしっかりと一瞬でも朱鷺子に向かせる手腕は素晴らしく。
続く流れを知って行き真相が開示される度にその信用が狙って作られたもので「やられた!」でした。


正直それほどまでに構成において引く要素は殆ど無く、「辻褄が合う」「伏線回収」「風呂敷を広げて畳む」「起承転結」という点に置いては全く不満は無いのですが、少しだけ難点を上げるなら上記で書いた通り、後半一気に情報量が押し寄せる為、若干の混乱を招く事。
特に朱鷺子と鷺乃の件は最後に開示された上で過去回想なので、情報を頭で纏める前に新しい情報が来るので名前で困惑したり。
神社の神主である資純の件は一瞬「資純が最低の悪い奴」にしてプレイヤー的には「え、あんなに良い人だったのに…」と幻滅が入った中で、即「実はそれは鷺乃の妄想だったんだよー嘘なんだよー」という風に書き換えられるので、資純の本編での良い人は嘘ではなかったんだ…という安心感と共に、「こんな速攻で修正される嘘、必要だった?資純の好感度一瞬でも下げる必要あった??」と不満が少し残りました。
資純、一番作中で状況を知ってる大人で背負ってる物や性別的にも気を使いまくった人物でめちゃくちゃ良い人だった為、そんな良い人の好感度を嘘で下げてきた鷺乃に良い印象を向けられず…
だからこそ、双子である朱鷺子を失った被害者では間違いなくあるけれど、様々な行動から「良い人」では無かったよなーと思ったり。


一番最初に出会うキャラである夏通(夏川先生)が一番行動を共にして謎解きの要素では重要なポジションですが、主人公の真相や救済の心理的には重要なポジでは無い所が「ヒロインっぽく見えてヒロインじゃない」そういうモヤモヤを感じた所はありました。
今作のヒロインは七榎と朱鷺子と鷺乃なんですよね…
一番最初に登場して常に一緒に居続けるキャラってやっぱりプレイヤー的には主人公の心理的にも重要で居て欲しいという気持ちがあるので、ルート分岐などがあって夏通EDみたいなのも欲しかった気持ちがあります。
あと、夏通の時と夏川先生の時でギャップが有りすぎる為、温度差でグッピーが死にそうでした。
夏通の時は「ギャルゲの妹系ヒロイン!」みたいな振る舞いなのに実際は患者一人を任せられるほどの医者先生って…ギャップ系ヒロイン好きですが、ちょっとギャップ有りすぎです(笑)
でも、所々で言葉通り体を張って主人公を救う姿は先生の姿をしていて、その辺りは本当にカッコよかったです。


あとは、物語全体を通すと「主人公人殺し過ぎじゃね!!?」となる恐ろしさ。
変えられない15年前の過去の時点で法的な罪には咎められず一種の事故のような形でしたが朱鷺子を殺しており。
BAD分岐では夏通を殺し、鷺乃を殺し…
主人公の精神の真相に辿り着こうとする女性は尽く殺される為、本作で一番ヤバいのは主人公だという事がよく分かります。
というか、他の人物は不穏な行動は起こしますが犯罪は一切犯していない中、主人公だけがバッチバチに殺すので、ヤバさが際立ちます。
正直、真相を知ると「コイツを野放しにしてはいけないのでは…?」と本気で思いましたし、七榎と結ばれるEDよりも殺したEDの後はしっかりと捕まると思うのですが、そちらの方が世の為、人の為な気はします。
朱鷺子と鷺乃の件、「罪の清算」という意味ではしっかりと思い出し償った方が物語的にはスッキリすると思うのと、七榎に守られっぱなしでなぁにが「男」だ!!という気持ちがある為、大団円が好きな側の自分は「主人公、償えやこの野郎…」という気持ちが無い訳では無いです。
ただ、同時に、読み手だけが知る不穏なED好きな自分はこのEDが好きなのと、「知らないままスッキリせず心の負担が残る事もまた一つの贖罪である」とも思うので、この終わり方も一つの完璧さがあると思ってます。
七榎からしたら朱鷺子を殺した事を主人公が知り、それに囚われ鷺乃に贖罪し続ける…という終わりは七榎の恋愛的には報われませんし、過去の一件もあり、鷺乃に主人公の心を掻っ攫わせる事はさせないと思うので…
七榎もまたしたたかな人間だなぁと思います、最後のけん玉の音を鳴らす姿とか…
本作は人間からの物理的な恐怖は少ないのですが(というか物理では主人公が一番ヤバいので)、精神的な恐怖はそれなりにある中、一番敵に回したくないのは七榎かなぁと個人的には感じました。
あと、癖が強い登場人物達の中で、本当に孫の存在が裏表無く純真無垢で輝いてました。
孫、可愛いよ孫。
孫、天使。


ミラーリング、イマジナリーフレンド、二重人格、性同一性障害…様々な要素を含み、ミステリーを書く人が「これを使いたい!!」となりそうな題材をここぞとばかりに詰め込んだ上で破綻する事無く綺麗に纏め上げられたとても整った作品でした。
夏、田舎、神社、記憶、人探し、ミステリー。
どの要素もとても惹かれる所ばかりで、とても好みの作風でした。
あと、今作はネタバレでもある為ジャンル区分的な物を主人公の精神性の方を優先し、ジャンル表記を男性主人公にさせて頂きました。